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第13話 雨の一日

啓司からの連絡がこの一ヶ月なくなっていた。季節は6月も中旬になっていた。ジメジメした梅雨が始まっていた。またあれから和樹は悪夢を見るようになっていた。 その夢は子供の頃から事あるごとに見ている。人がたくさんいる交差点の真ん中に一人立ちすくんでいるシーンから始まる。そこから家に帰るのだが、気がつけば家ごとなくなってしまっていて、一人取り残されるという夢だ。いつの間にか自分は子供に戻っていて、さっきまで手を引いてくれてた母親も先を歩いてどこかへ行ってしまうという夢だった。その寂しさに涙が出てしまう。この夢の目覚めはいつも涙を流していた。 啓司が言っていた寝言は、この母親との別れの時に言っているのだろう。 今日もアルバイトへ向かう。 この日は昼の12時から夕方の18時までのシフトだった。この日はスタッフがほぼ出払っていて和樹はスタジオの留守番だ。その間に問い合わせのメールや予約を整理していく。事務作業の日だった。 合間を見て和樹はメイクを考える。 少しだけだが、メイクアップアーティストとして仕事をさせてもらえるようになっていた。ここでアルバイトをし始めて二ヶ月。今月末には初めて和樹のメイクサンプルを見たお客さんから指名が入って自分がメイクをするお客様の予約も入っている。24歳の女性の結婚式前撮り用の撮影でメイクをする。和樹はそのメイクを考えていた。 スタジオの入り口が開いた。 「いらっしゃいませ」 顔を上げると、エイジがびしょ濡れで立っていた。 「和樹君、久しぶり!いやー外すごい雨だよ」 そう言いながら入り口で身震いをしている。 「エイジさん!びしょ濡れじゃ無いですか!ちょっと待って。タオル持ってきます」 いつの間にか外は大雨になっていた。 夕方17時なのにだいぶ外が暗い。 曇天の上、大雨で、暗くなったのだ。 「これ使ってください」 そう言ってタオルを手渡す。 「あれ?今日は百合子は?」 「え?今日は百合子さんは結婚式場の撮影行ってますよ。なんかモデルさんを使って夏のブライダルフェア用の写真撮影とかって言ってました。で、それにメイクの直美さんも一緒にいってます。だから今日は僕が留守番で・・・」 「ああ、そうか、今日がその日だったか。じゃあ俺日にち勘違いしてたな。また出直すわ」 そう言ってまた大雨の中を出て行こうとする。 「あ!エイジさん、もう少し雨宿りされたらどうですか?まだじゃじゃぶりじゃないですか外」 「・・・・そうだな・・・そうしようか」 「今コーヒー淹れます」 そう言ってカップにコーヒーを注いでエイジに渡す。 「和樹君、この前の写真、見てくれた?気に入ってくれてたら良いんだけど・・・」 あの撮影の後データをもらって以来会ってなかった。だから一ヶ月近く顔を見ていなかった。 「ああ・・・はい。すごく綺麗に撮っていただいて、僕は気に入ってます。これでおじいちゃんになっても、僕の若い時は記録ができましたから。ありがとうございます」 「はははは。確かにな。そう言ってくれて良かったよ。ちょっと俺も年甲斐もなくあの撮影は、のめり込んでしまったから・・・でもお陰でいい作品になりそうだよ。もう少しかかるだろうけど、写真集として出す予定だから、完成したら、和樹くんにも上げるよ」 そう言ってコーヒーを飲んでいる。 電話がなる。 「お電話ありがとうございま・・・ああ、百合子さん。はい。はい。わかりました。じゃあそうさせていただきます。鍵はいつものようにですね。はい。では明後日。お疲れ様です」 百合子からの電話だった。今日は今からまだ大雨になるようだから、早くスタジオを閉めて帰れという指示だった。鍵も閉めて店の戸締りもするようにとの事だ。過去に一度経験があったから、和樹は言われた通りにする。 「エイジさん、今からますます大雨になるみたいで、店じまいして帰れって言われました」 「そっか。まだ降るんだな・・・。和樹はここから家近いの?」 携帯を見ながら和樹に聞いてくる。 「え?電車で5つです」 「どうも、電車止まってるみたいだよ。今携帯見たら、JR大雨の影響で止まってるって。俺の家もここから駅ひとつなんだけど、これ電車止まったなら、帰れないんじゃない?」 「え?もう電車止まってるんですか・・・」 「和樹君、嫌じゃやなかったらうちに来るかい?今ならまだタクシー捕まえれそうだし」 その提案に少し戸惑いはしたが、この”よし君”に似た声で誘われるとどうしても断れなかった。 「いいんですか?僕、お邪魔じゃないですか?」 そう聞いたら 「邪魔だったら最初から提案しないから、安心しな」 そう言われた。 その日は一緒にこのエイジの家に帰った。 雨はあの後ますます酷くなって、エイジの家に着いた頃には落雷で停電になる程だった。 エイジの部屋に入ると、二人とも服をすぐ脱がねばならないほどずぶ濡れだった。幸い停電しても、エイジの部屋の風呂はガス式で、お湯が出る。停電しているから早くガスが生きている間にと、二人でシャワーを浴びた。冷たい体をお湯で温める。 キャンドルを持って風呂に入る。 思いがけずムード満点で、和樹はまた男娼の時を思い出してしまう。”よし君”に似た声で囁かれると、どうしても思い出してしまって変な気分になる。この人とならしたいと思った。 思わずエイジに 「もっと何か話して」 そうねだってしまった。 「和樹君、俺の声が好きみたいだね。和樹君にねだられたら、抵抗できなくなってしまうよ。紳士でいようと努めているのに、君は本当に小悪魔だな・・・」 そうシャワーを浴びながら耳元で囁かれるともう和樹も我慢ができなかった。 「僕のここ触って・・・」 そう言ってエイジの手を自分の口元に持ってきた。 そしてそのままエイジの親指を口の中に含んで舐めた。 エイジの中の男が目覚めてしまった。 「もう・・・止められないぞ・・・。いいんだな」 そう言うと和樹が頷く。 そのまま和樹の首元にしゃぶりついていた。 エイジは和樹の手を引いてベッドへと誘う。エイジの部屋は和樹のワンルームとは比べものにならないくらい広い。ベッドもキングサイズでシルクのシーツが広がっている。 停電が続いている。キャンドルを二つサイドボードに灯す。外は雷が光っている。閃光の隙間でキャンドルが揺れる。 その揺れる火に、和樹の体が照らされて色っぽい。 和樹もすっかりスイッチが入っている。 「ねえ、ここ触って欲しいの・・・」 そう言いながら自分の胸の突起を摘んでエイジの体にまとわりつく。 「今日の和樹はこの前よりも数段綺麗だな。今日は君の体を僕のものにしてもいいのかい?」 そう耳元で囁く。和樹が小さく頷く。 「ふぁぁんんっ。耳元で囁かれたら溶けちゃう〜」 和樹が悶える。 「ここが好きなのかい?」 そう言いながら和樹の胸の突起を舐め上げる。 「すき〜〜ぃぃ。ああはん。そこ舐められるとジンジンするぅぅ」 和樹が体を捩りながらエイジの下半身を触ってくる。 「んんっ。和樹、そこをそんなに強く握ったら・・・俺・・・」 エイジも理性が飛んでいきそうだった。 和樹がエイジの上に馬乗りになる。 妖艶な表情にすっかりなっている和樹は口から涎をたらしてなんとも艶かしい。エイジは和樹の尻をグッと力を入れて揉んだ。 「ああ、そんなにしたら欲しくなっちゃうぅ」 和樹が胸に倒れてくる。 指をそのまま和樹の窪みに滑らす。 「はぁぁ・・・もっと触って・・・柔らかくなるまで・・・」 和樹がエイジに口づけをしてくる。その行為に煽られて、エイジは夢中でそこを触る。エイジもこんなに興奮するのは久しぶりだ。もうはち切れそうになっている。ローションとコンドームを枕元のサイドボードから取り出す。それをつけるともう和樹のソコは準備ができているかのように和樹自身が擦り付けてくる。 「和樹、もう我慢できない。入りたい・・・」 エイジが耳元で囁く。 「うんいいよぉ。きてぇ」 すっかり溶けている和樹の中に侵入する。 「はぁぁぁん。気持ちぃぃぃ。ああ、入ってるぅぅ」 そう言って和樹はビクビク体を震わしている。 それにつられてエイジも体を動かす。 「ああぁん。いくぅぅ」 和樹はその言葉と一緒にはてたようだ。 そのままエイジは力を入れて和樹の奥に侵入し続ける。 「ああぁぁ」 そう言いながら果てた。 そのまま二人は抱き合って寝た。 夜中まで雷は鳴り続けていた。 でも二人でいれば怖くも寂しくもない。 シーツの波で二人は溺れた。

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