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第14話 孤独感
それからエイジと和樹は定期的に体をつなげる関係になっていた。いつも和樹が寂しくなった時だ。エイジはなんとなく、この和樹の寂しくなった時に見せる表情に同情していた。
きっと、忘れられない人がいるのだろう・・・
そんなことは気づいていた。それでもいいと思っていた。セックスの時は特に自分の声を聞きたがる。耳元で話してほしいというその和樹のリクエストに応えながら、少し侘しさも感じていた。どんなに抱いても腕の中の和樹は自分のものになった気がしないのだ。でもあの妖艶さには抗えないのだった。
一方和樹は抱かれても心から満足できない自分に気がついていた。行為自体は気持ちがいいし、満足している。だが、心が埋まらないのだ。男娼をしていた時と何が違うのか、もうわからなくなってきそうだった。
あの時はお金という対価のためにやっていたから自分なりのルールもあった。そして、自分なりのプライドもあった。でも今はよくわからなくなっていた。
エイジのことは嫌いではない。でも身を焦がすほど恋しているのかと言われるとわからない。最近は見たいと思わなかった古い映画もまた見たいと思っていた。和樹は昔から寂しくなると白黒の映画、特にオードリーヘプバーンが出ている映画を見たくなった。
おそらく母親が生きていた時に、母と一緒に見た映画だったからだろう。内容はよくわからなかったが、子供ながらにオードリーヘップバーンの顔が好きだった。あんな顔になりたいと思ったものだった。そんなことを言うといつも母親が幼い和樹を抱っこして言っていた。
「和樹の顔がオードリーになちゃったら、お母さん悲しい。私の天使の和樹の顔が無くなっちゃうんだよ。あなたの顔はパパにそっくりなんだから。お母さんの一番好きな人の顔よ」
そう言って鏡を二人で見ては抱きしめてくれていた。
僕、また寂しくなってる・・・。
そう自覚した。
7月の上旬、スタジオに和樹の義姉のあやが訪ねて来た。
前会った時よりも大きなお腹になっている。
もう臨月のようで歩くのもやっとのようだった。
「あやちゃん!まあ、お腹大きくなって凄い〜。もうすぐなのかしら?楽しみね〜」
そう言って百合子さんとあやが話している。
「そうなの、もう一ヶ月切ったから、今のうちに写真撮ろうと思って!所謂マタニティーフォトってやつ!」
「いいわよ。今からでいいの?」
「うん。昨日電話した通り、後10分くらいで旦那も来るから。和樹も写ってよ!」
そうあやが話しかけてくる。
「え?僕も?」
「そりゃそうでしょ!和樹はおじさんになるのよ!せっかくだから一緒に。あ!ヌードじゃないわよ!普通の家族写真よ!」
それを聞いて安心した。マタニティーフォトといえば、お腹にペイントなどをして、半裸の状態で撮ったりする。姉が言っている写真は普通の家族写真のようだあった。
「和樹!せっかくだから、ちょっと化粧直してよ。外が暑くて汗だくになっちゃったから」
そう言ってくる。
「そうね。和樹君、お姉さんのメイク直ししてあげて」
百合子さんからもOKが出た。
10分後にあやの旦那の秀一もきた。スーツを着ていたが、あまりに暑くて上着を脱いでいる。顔が汗でてかっている。和樹はあやのメイク直しと、秀一の顔のテカリ抑えなどをして準備をする。
記念撮影が始まる。
あやと秀一のパターンの撮影。
そしてあやと秀一と和樹のパターンの撮影。
秀一の提案で和樹とあやの姉弟パターンの写真。
全部で3パターン取った。
今はその場で写真が見れる。
家族写真はいいものだ。
この幸せのひとときを永遠に切り取っておける。
確実にそこにあったと言うことを証明している。
和樹は少し幸せになった。
「和樹、次会う時はもうこのお腹の子とも会えるかもしれないわよ!おじさんになる気持ちの準備しておいてよね!」
そう言われた。
そして、帰り際にもう一つ。
「和樹、ご飯ちゃんと食べてる?最近はもう悪夢見てないの?顔色ちょっと気になるなー。無理しないでよ」
姉には見透かされているような気分になった。
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