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第15話 7月上旬

啓司はあの日以来和樹の家に行けずにいた。気になってはいたが、自分の気持ちが整理つくまでは・・・と思っていたら時間が経ってしまった。しかもそんな時に限って、仕事も立て込む。 海外出張が続いたのだ。あれから気がつけば二ヶ月が経っていた。時間が経てば経つほど連絡するのが怖くなっていく・・・。でも啓司は自分の気持ちに気が付いてしまった以上このまま放っておいては前回の恋愛と同じになってしまう。会わない間にいなくなるなんてことは、もう経験したくなかった。 勇気を出して和樹にメールをしてみる。 ”和樹、久しぶり。また海外出張行ってた。今日お土産持って行ってもいい?” そう送った。 1時間くらいして、返事が返ってきた。 ”今日はちょっと無理なんだ。明日ならいいよ” よかった。とりあえず連絡は取れた。 たまたま今日の都合が合わなかっただけだろう。 明日の夜お土産を持っていくことを連絡した。 和樹は驚いていた。 二ヶ月連絡が途絶えていた啓司からメールが来たのだ。前回会った時になぜか怒って帰ってしまった。その理由がなんとなく想像はついても、なぜそれで怒られねばならないのかわからなかったから、こちらから連絡することも辞めていた。しかも今はエイジとそう言う関係になっているし、寂しければ彼が抱いて寝てくれる。 とりあえず今日はエイジとの先約がある。 明日にしてもらった。 職場からエイジの家までは電車で一駅だ。 だがこの日はちょうど途中にあるお客のところに、写真を現像したものを持っていくようお使いを頼まれていた。歩いてもそんなに遠くない。そのまま歩いていくことにした。お客さんのところに先に行く。 そこは昔ながらの街の車の修理工場で、大きな音でラジオが流れていた。 そこの親父さんに現像した写真を渡す。油まみれの親父さんが手を洗ってくるからちょっと待てと言う。親父さんの奥さんが麦茶を出してくれた。 ふとその時、ラジオから流れてくる声に耳がいく。 この声・・・・。 ”今日のゲストは声優の吉木譲治さんです。今大ヒット中のアニメ「探偵Rの苦悩」についてのお話など伺っていきます。 『よろしくお願いしますー。吉木譲治です』 吉木さんこうやってラジオに出られるの久しぶりですよねー。 『はい、久しぶりですね。今日は久しぶりだから緊張してますよ』 またまた〜。さて今日は色々聞かせていただきたいのですが・・・・” ラジオから流れてきたその声はあの”よし君”の声だった。 お客として通っていてくれていた時には客の仕事は聞かなかった。みんな色々バックボーンがあるだろうし、男娼を買いに来る時には夢の世界に居させてあげたかった。いい声をしているとは思っていたが、まさか声優だったなんて思いもしなかった。 本名は最後にもらったプレゼントに添えてあったメッセージで知った。だが、”よし君”が吉木譲治だった事をこの時、初めて知ったのだった。 とりあえずその現像した写真を確認してもらってエイジの部屋に向かった。

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