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第16話 重なる面影

頭の中はさっきの”よし君”との思い出でいっぱいになっていた。全ていい思い出だ。和樹のことをお姫様のように扱ってくれて、本当の意味で繋がれていたお客だった。あれが初恋だったのかもしれないと今は思っている。 そんなことを考えていたらエイジの部屋についていた。 「和樹、遅かったな。迷ったかと思ったよ」 そう言ってエイジは笑いかけてくれる。 「ううん。百合子さんにお使い頼まれたからそれで・・・」 「そうか。和樹はお腹は減ってないか?」 「うんちょっとだけ・・」 「そうか、よかった。さっきこの近くの中華に出前頼んだんだよ。もうすぐ持ってきてくれると思うから、それ一緒に食べよう」 「うん。ありがと・・・」 出前が届いた。 一緒に食べる。 お腹が膨れたら、人間に残された欲望は二つだ。 性欲と睡眠だ。 「和樹、一緒にお風呂入るか?」 エイジに聞かれた。 「うん。泡風呂にしてくれる?」 聞いてみる。 エイジは優しく笑っていいよと言ってくれる。 お湯がたまる間、少しワインを飲む。 今日は白ワインだ。冷えていて美味しい。 「和樹、そろそろお風呂溜まったぞ。おいで」 そう言って和樹の手を引く。 服を脱がせて、一緒にお風呂に入る。湯船に二人で浸かる。背中から抱かれている姿勢で入るのが和樹のお気に入りだった。 「和樹、どうした?今日は元気がないな・・」 そうエイジに言われて、和樹は我に帰る。さっきの”よし君”の思い出を考えていては失礼すぎる。 「ううん。そんなことないよ。大丈夫だよ?ねえ、エイジ、僕のいいとこ触って」 思わず言ってしまう。男娼時代に身についた、男をその気にさせる技だ。 「和樹のいいところは・・・ここが好きだろ・・・」 そう耳元で言いながら胸を触る。 エイジはもう和樹好みを心得ている。 「はぁぁ。気持ちいい。もっとしてぇ」 甘えたな和樹のスイッチが入る。 「和樹は甘えるのが上手いな。気まぐれなメス猫のようで、本当はプリンセスだな」 「うん。和樹はお姫様なの」 男娼時代に腐るほど言っていたセリフだ。 エイジの方に体を向き直る。 そして、エイジの乳首を舐め上げる。 大概の客はこれでスイッチが入っていた。 またあの時の癖が出た。 エイジも例に漏れずスイッチが入ったようで、そこからはもう熱情に任せる。 湯船から出て、和樹はエイジの下半身のいいところを攻める。男同士なのだから、どこがいいかはすぐわかる。どこを触れば抗えないのかもわかっている。 そして、エイジをいかせる。和樹は今日の自分が何を考えているか悟られないようにする事を考えていた。 「和樹、ベッドに行こう。俺も和樹をよくしたい」 そう言われて、抱き抱えられた。 「うん。そうして・・・」 そう言ってエイジの首にしがみついた。 ベッドに放り投げられると、和樹の体は簡単にエイジに組み敷かれた。四つん這いにさせられて、その小さな穴を舐め上げられる。思わず声が出てしまう。 「エイジ・・・そこ・・・やぁぁぁ。気持ち良すぎぃぃ」 その言葉を聞いてエイジはローションとコンドームを用意する。和樹は自分の体が快楽に正直なところに救われていた。 「エイジぃぃ、もう入れてぇぇ」 そうおねだりしていた。 エイジももう理性が飛んでいる。 和樹の体をゆっくり貫く。 「あああああぁぁぁぁぁ。いいよぉぉぉぉ」 そう言いながら和樹が悶える。エイジもいつも以上に煽ってくる和樹に夢中になっていた。 「ねえ、和樹のこと好きって言って。耳元で言ってぇぇ」 そうおねだりされた。 エイジは素直にそれに応える。 「和樹、綺麗だよ。好きだ。好きだよ。ああ、俺が壊れる・・・」 そうエイジが耳元で囁く。 「ああぁ、よ・・君・・好きぃぃ・・・いくぅぅぅ」 そう言いながら和樹の体が痙攣する。 「和樹ぃぃぃ、ああぁぁぁ好きだよ・・・・」 そう言いながらエイジも果てた。 そのままベッドで白ワインを飲む。 二人は微睡んだ。 エイジは完全に気が付いてしまった。今日の和樹は俺じゃない誰かとしていたと。普段俺の名前を言わないのに、何度も俺の名前を言った。そして好きだと言ってくれとおねだりされた。そして決定的なのは、最後に言った名前は・・・はっきりとは聞き取れなかったが、自分の名前ではなかった。ずっと気が付いていたが、見ないふりをしていた。最初から失恋したと言っていたし、寂しくなった時に連絡をくれているのもわかっていた。だがこちらが本気になってきている。なのに、この和樹は自分のことは見ていない。その虚しさに押し潰されそうになった。 しばらく距離を置こうとエイジは思った。

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