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第19話 答え

エイジはあれから悩んでいた。 和樹とはもう会わないほうがいいのではないかと。 このままだと自分だけではなく、和樹も壊れて行ってしまうのではないかとすら思っていた。和樹がたまに見せる妖艶さと、寂しい表情が気になっていた。 和樹はエイジよりも15歳も年下だ。傷つく若者は五万と見てきている。特にゲイの男の子のことは経験上よく知っている。だから悩んでいた。自分と一緒にいることで癒しになるのならそれでも構わないと思ってはいるが、和樹はそうでない気がしてならなかった。 久しぶりにあの和樹と出会ったゲイバーに行った。 相変わらずこの店のBGMは大きい。 カウンターに座ると店長のジュンがいつものテンションで寄ってくる。 「エイジさん今日は一人なのね〜。何飲みますか?今日もワイン?」 笑いながら聞いてくる。 「いや、今日は一人だからね、スコッチのロックで」 「あらやだ!今日は大人なのね〜」 そう言いながらジュンが目の前にロックグラスを出す。そこにスコッチの酒瓶から酒を注ぐ。 「こないだ和樹にばったり会ったわよ!なんかあったの?エイジさん?」 「え?ああ・・・まあ・・・・」 「一つ言っておくけど、あの子のこと傷つけたら、エイジさんでも許さないわよ!」 ジュンが一瞬男の顔になる。 「傷つけるね・・・・俺が傷ついてるよ」 思わず弱音が出てしまった。ジュンはその言葉が聞こえなかったのか、無視している。 「お隣座ってもいいですか?」 エイジの横に可愛らしい男の子が立っていた。 「ああ、いいよ。どうぞ」 「わ〜い。この前から素敵だな〜って思ってたんです〜。僕リュウです。今日は一人なの?」 こちらのことはお構いなしに話してくる。 「ああ、今日は一人だよ。  リュウ君は一人できたの?」 まだあどけなさが残る男の子だ。 「一人だよ。あ!僕のこと子供だと思ったでしょ!僕こう見えても23歳だから!和樹より年上!」 そう言って口を尖らせている。 「和樹のこと知ってるのか?」 「知ってるよ〜。あの子ココのスタッフだったし、その後風俗いっちゃったけど、人気ある子だったから、僕のライバルだったもん」 「え?風俗?」 「え?知らなかったの?あの子男娼してたよ。一年位してたんじゃない?今はやめたって聞いたけど〜」 ペラペラ喋る男の子だ。 「エイジさんって言うんでしょ?  僕と今晩遊んでくれない?今日寂しくって〜」 そう言ってエイジの体にもたれかかってきた。 「ちょっと!リュウ!あんた、節操ないわね!  おしゃべりな男は嫌われるわよ!このガキが!」 そう言ってジュンが割って入ってきた。 「もう〜、僕が口説いてるんだから、ジュンくんは黙ってて!!」 隣でキャンキャン吠えている。 「ちょっと俺、トイレ・・・」 エイジは居た堪れなくなって席をたった。 和樹が男娼・・・・・。 妙に納得してしまった。一年で辞めたのだから、何か理由があってその職業を選んだのだろう。そしてあの妖艶さの説明もついた。元来持っている素養はあるのだろうがそれ以上に和樹の妖艶さは洗練されていた。それにあの寂しそうな雰囲気。風俗に入った人間を昔取材したことがあった。その時に感じていたものと確かに似ていた。 席に戻るとまだあのリュウとジュンがやり合っている。 「エイジさんジュンさんに言ってやってよ!  若い男に嫉妬しないでって!」 リュウがそう言いながらエイジにくっついてくる。 「リュウ君、若さしか武器がないのは悲しいね。俺は君には興味がないから寂しいならあそこにいる男がオススメだけど?さっきから君のこと見てるよ」 そう言ってやった。 リュウは何を言われたのかよくわかってなかったみたいだったが、ジュンに促されて、そのオススメした男の方へ行った。 「エイジさんごめんなさいね・・・。リュウ、節操なくって。あの子そのうち痛い目あうわよって言ってるんだけど・・・」 ジュンはこの店のママだ。よく若い男の子を見ている。 「エイジさんショック受けちゃった?和樹のこと・・・」 「ああ、さっき彼が言ってたことかい?いや、妙に納得したさ」 「まあエイジさん大人だから皆まで言わなくてもわかってると思うど・・・」 「ああ、人それぞれいろんな事情があるからね。  でも尚更彼には幸せになってほしいな」 「あら!エイジさんってほんといい男。もし傷ついてるなら、私が癒してあげるわよ。エイジさんならいつでも」 ジュンがカウンタ越しに顔を近づけて、エイジの耳元でそう言った。それにエイジは一瞬驚いたが、ふっと笑えた。 「そうだな。俺が寂しさでたまらなくなったら、その時は頼むよ」 そう言ってスコッチを飲み干して金を払った。 ああ、これは俺から線を引くべきだな・・・そう思いながらその日は夏の夜気を吸いながら帰った。

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