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第21話 和樹の母
その帰りに和樹は久しぶりに義父と実家に帰った。
実家は和樹が高校3年まで住んでいた部屋がある。
2年半ぶりの実家だった。
リビングで義父と二人でお茶を飲む。
「和樹は2年間元気にしていたのか?」
そう聞かれて、2年も会っていなかったのかと改めて悪いことをしたなと思った。この人は自分を邪険にしたことなど一度もない。それどころか、いつも気にしてくれていた。避けていたのは自分の方だった。世話になり過ぎるのが怖かったのだ。
「和樹、お前と家族になってまだたった5年ちょっとだが、俺は本当の家族だと思っているんだよ。お前は遠慮があるようだから。だが、この際だからお前の母さんとのことも話しておくよ」
そう言って義父は話し出した。
義父が母と出会ったのは職場だったそうだ。
義父はあやの母親をあやが幼いときに病気で亡くしていた。
父子家庭で育ったがあやは良い子に育ってくれた。
義父が和樹の母親を三年も口説いたのだそうだ。
その時にはもうあやは高校生だった。
口説くのが下手な父親を応援したのもあやだった。
あやはいつもこう言っていたそうだ。
『お父さんはそろそろ次の恋をした方がいい。私は女の子だからいづれお父さんの元を離れるでしょ?そしたら一人になっちゃうのよ!だからそんなに好きなら口説かないと、年取ったおじさんなんか誰も相手してくれなくなっちゃうよ!』
なんともあやらしい。
そして、3年かかって和樹の母親と結婚したのだそうだ。残念ながら一年で和樹の母親が死んでしまうのだから何とも言えない結末なのだが。だが和樹の母親が死ぬ時に義父は約束をしたのだそうだ。
和樹を一人にしないと。あの子はずっと一人で寂しいとも言わずに耐えてきた子供だから、自分から寂しいとは言わない。だから、あの子の事を私の分まで愛してあげてほしいと。
その約束を自分が守れているのか、義父は気にしているのだ。そして、母親は気がついていたようだ。
和樹が女の子に興味がないことに。
だから和樹がどういう人を愛したとしてもそれ受け入れてほしいとも約束をしたと。
和樹自身が自分がゲイだと気がついたのは16歳の終わりだった。ちょうど母親が亡くなる前後だ。和樹は母親には勝てないと改めて思った。その頃は義姉のあやもいつも気にかけてくれていた。父親だけは自分がゲイだと言うことを知らないと思っていた。だが違った。知っていたのだ。和樹は心が張り裂けそうだった。
なんて事を今までしてきたのだろうと。自分は一人で生きていけるようにと片意地はって生きるつもりだった。だがそれは違ったのだ。全てわかった上で、見守ってくれている人がこんなに近くにいるではないか。しかも手を差し伸べ続けていてくれていた。
あの”よし君”と話した時を思い出した。
"自分の為に全てを差し出してくれる人が現れた時は・・・
そして自分の肝臓をあげてもいいと思える人が現れたら・・・"
やっと本当の意味でわかった気がした。
これが愛なのだ。
「和樹は好きな人はいないのか?」
おもむろに義父に聞かれた。
「え・・・?僕・・・。好きな人・・・いる」
「その様子だとまだ手に入れてないみたいだな・・・」
「最近の子はクールなのか何なのか、うちの取引先の子にも似たような事を言っている奴がいたよ。和樹は手に入れたくないのか?その人の心を」
「手に入れたい・・・・」
「なら、カッコ悪いくらい必死になれ。玉砕してもいいんだよ。当たってみなけりゃわからないんだからな!お前の母さんだって3年だぞ!3年!和樹も頑張れよ」
この日、和樹は初めてこの由良の家族になれた気がした。
再婚で苗字が変わって5年。
由良和樹。今年21歳。
この父親が言うように体当たりをしてみようと腹を括った夜だった。
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