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第22話 ドライブ

次の日。 和樹はまずエイジに連絡を取った。 ”エイジさん、話があります。今日僕は仕事が18時に終わるのですが、その後会えませんか?” そう連絡を入れる。 ”いいよ。俺も話があるんだ。今日18時過ぎに車で迎えに行くから” そう返事が返ってきた。 夕方18時すぎ。職場を出るとエイジが車で迎えに来ていた。シルバーグレーの外車だった。外の音がほとんど聞こえない車内はラジオが流れていた。 「和樹、このままちょっとドライブに付き合って」 「はい」 そう言って車は海に向かって走っているようだった。1時間半ほど走ると海についた。二人で防波堤に登って話す。 「エイジさん・・・僕実はエイジさんと出会う前、男娼してたんです。そこで、一人の男性と知り合いました。お金をもらってた時には気がつかなかったんですが、その人と会えなくなって、その人の事好きだったって気がついたんです。僕の初恋の人でした。エイジさんはその人の声に似てるんです。ごめんなさい。エイジさんをいつの間にかその人の代わりに・・・」 そこまで言った時にエイジが口を開いた。 「知ってたよ。君が誰か別の人を思っていたの。最初は気がつかなかったけど、3度目に気がついた。男娼してたって言うのはこの前知った。どおりで君は二十歳の割に妖艶で大人びていると思ったよ」 「・・・そうなんだ・・・嫌いになったでしょ・・・」 「・・・・君が男娼をしてたからかい?」 コクリと頷く。 「いや。嫌いにはならないさ。こう見えて、俺も若い頃は色々したからね。ヒモみたいな生活もしてたよ。俺がとやかく言えることじゃないから・・・」 「・・・・・・・」 「和樹君、でももう何だか今日は吹っ切れた顔してるから、その初恋の人のことも整理ついたんだろ?」 「はい・・・。まだたまに声を聞くと懐かしくなるけど、もう思い出の1ページになりました」 「たまに声を聞く・・・ラジオからさっき流れていた人の声かい?君反応していたからね」 「・・・・・」 「いいよ言わなくても。そっか。俺は君にカメラのファインダーを通して見たとき、君に恋したんだな。きっと。このままだと本気になって君を壊してしまいそうだから、俺も君を手放すよ。もうその人の代わりをしてやる必要もなさそうだしな・・・」 そう言ってエイジは和樹にカメラを向けて一枚写真を撮った。 「ほら、いい顔をしてる。  和樹は笑っているのがいい」 エイジがそう言って、和樹の腕を掴む。 思わず和樹はエイジの腕の中に収まった。 「和樹、俺の3ヶ月のミューズだったな」 そう耳元で言われた。 そして、エイジは和樹のおでこに優しくキスをした。 あたりは暗くなってきて潮騒だけが聞こえていた。 「和樹、そろそろ帰ろうか・・・」 そう言ってエイジは車に向かう。 「これ、言ってた作品集が出来上がったんだ。  君の写真が一番多い」 そう言って車の後部座席から出来上がったばかりの写真集を取り出して和樹に渡す。 写真集の表紙は和樹が赤いコートを着ている写真だった。 「あ・・・この写真・・・」 「気に入ってくれるといいけど。俺はこの写真の中の和樹で満足するよ」 本のサブタイトルが『Boys To Men』(*少年から男への成長の意)になっている。 「この写真集は来週から発売される。 そして、俺はしばらく日本を離れる予定だよ。 カメラマンとしてまたミューズを探しに旅に出るよ。 和樹、また君が幸せになった頃に会おうな。 その頃には俺も自分のミューズを見つけているだろうしな」 「エイジさん、色々ありがとうございました・・・」 その言葉を聞いてエイジは笑った。 そして車はまた街に向かって走り出した。 家の下まで送ってもらった。別れ際は今までの中で一番あっさりしたものだった。そして自分の部屋へ戻るとまだあの啓司がくれた薔薇の香りがしていた。

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