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第26話 Boys To Men

午前4時。 和樹は薔薇の匂いで目が覚めた。 すっぽり啓司の腕の中に収まって寝るとやっぱり落ち着く。短い時間しか寝てなくても熟睡した気持ちになる。愛する人とするセックスはこんなにも自分を満たしてくれる物なのかと実感する。啓司を起こさないようにこっそり起きて、もらった薔薇の花を花瓶にいける。いい匂いで部屋が満たされている。 自分が好きだと言った花を買ってきてくれる男。 そんな男は今まで出会ったことがなかった。唯一男からもらったプレゼントがあの”よし君”が最後にくれたティファニーの指輪だった。 クローゼットから久しぶりに取り出して、見てみる。 あの時はあんなに切ない思いが溢れてきていたのに、今はもうそれを感じなくなっていた。きっちり心の整理がついた証拠だと思った。 部屋のテレビのところにはエイジからもらった写真集がある。それを開いてみてみる。半分は和樹の写真だった。思い出の赤いコート。ベッドで誘っているような自分の顔。ベッドに座って髪を触っている自分の写真。シャワーを浴びながら目を瞑って口を開けている自分の写真。どれをみても過去の自分だとしか思えなかった。エイジが言っていた通り、このカメラ越しの和樹はもうこの中にしかいないのかもしれないと思った。 最後のページを開いてみる。 そこにはマジックでエイジのサインがしてあった。 そして一言、メッセージが。 Dear My Muse kazuki . With love (僕の女神の和樹へ、愛を込めて) そのメッセージを見て和樹はエイジに感謝の気持ちでいっぱいだった。 混乱の中の和樹を導いてくれた人の様に思えたのだ。 「ん?和樹?もう目が覚めたの?」 啓司が目を覚ましたようだ。 和樹は急いでその写真集を元の場所に戻す。 そして、啓司の腕の中に潜り込む。 「薔薇の花を生けただけだよ。啓司まだ寝てて大丈夫だよ。まだ4時半だから」 そう言って啓司の胸元にキスをする。 「ふふふ。くすぐったいよ。和樹は猫みたいだな。気まぐれな猫だな」 「僕猫なの?」 「そうだよ。だからいつも俺の心を翻弄するな。でも大丈夫。俺は犬だから、和樹のそばを離れないよ。気まぐれでもそれに付き合えるのが犬だろ?」 そう言いながら笑っている。 「猫ちゃん嫌いじゃないからいいけど・・・和樹、啓司のこと翻弄するの?」 「ああ。それでいい。和樹は和樹らしく。  俺のものだから」 それを聞いて笑えてきた。 昔、”よし君”に言ったことがあった。 自分は誰のものでもない、自分のものだからと言ったことを。 でも今は啓司のものになって嬉しいと思っている。 これが自分のものを全て差し出せる人なのだろう。 「ねえ啓司・・・もし啓司の肝臓がダメになったら、僕の半分あげるね」 それを聞いて、啓司が夢現の状態でいう。 「ああ、そうだな。じゃあもし、和樹の腎臓がダメになったら俺のを一つあげるよ」 そう言われて、和樹は幸せだった。 これが答えだったと、今、”よし君”に会えたら言えるだろう。そう思いながら啓司の腕の中でもう一度目を閉じた。

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