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化け物3
男は優しかった。
いや、男は最初から丁寧に俺を抱いてきたし 、性的に追い詰めはしても、痛みを与えたのは最初に刃物で脅した時だけだった。
でも、今は大切なものを扱うように抱かれた。
宝物を扱うように。
何度となく、「可愛い」と囁かれた。
髪や指先に甘く唇を落とされた。
可愛いには、納得はいかないが、心地良かった。
本当に納得いかないんだけど。
徹底的に甘やかされた。
気持ち良いことしかされなかった。
切なげな視線を向けられれば、勘違いしそうになった。
「俺は穴」でしかないんだってことを忘れそうになってしまった。
まだ、処理用の穴らしく扱われた方が、楽だったかもしれない。
入れられて、優しく揺すられて。
ものすごくゆっくり絶頂に連れて行かれるのは、思考なんて、溶けてしまって。
射精する絶頂とは違う、絶頂だった。
だらだらと俺のモノは精液をこぼしてはいたが、射精はしてなかった。
それは、何も出なくてもイかされた、あの感覚とも違って、すごい、良かった。
溶けちゃうんじゃないかと思う快楽は、俺にはひどくつらかった。
俺が俺でなくなってしまうから。
俺は欲しがり、ねだり、乱れ、思い出したくないような有り様だった。
とにかく、男はびっくりするほど優しくて。
優しいのはいいんだけど、あんなこともこんなこともされてしまって、もう、俺はどうすればいいんだろう。
男がもしかしたら俺に好かれたいと思ってるんじゃないかと思ってしまった。
俺はどうなるんだろう。
「してる時に他のこと考えるのはダメだよ」
男が優しく俺の唇を指でなぞりながら言う。
俺の脚を押し広げ、男は俺の上に覆い被さっていた。
指が唇をわり、口の中をかき回す。
それが気持ちいい。
指を夢中でしゃぶる。
男はそれを見て笑う。
指を引き抜かれ、何度も顔に唇が落とされる。
唇も甘い。
俺の中でゆっくり、ゆっくり男は動いている。
俺は喘ぐことしかできない。
優しく快楽を送り込まれる。
優しい快楽は、気持ち良いけど、終わりのない怖さがある。
男が苦しげに眉をよせたので、我慢しているのだな、と思った。
俺が男なら、なら好きに動いてしまうのに。
「好きに動けばいいのに、俺はもう、いいから」
俺は言った。
俺ももう辛い。
射精するような快楽にして欲しい。
それなら、俺にも理解出来る快楽で。
後ろでイかされることには抵抗があるけど、この今の快楽は、もっと身体を変えられてしまうようで怖い。
「僕のこと考えてくれてんの?ありがとう」
男は笑った。
「でも、お前が逃げたりしないように、うんと優しくしときたいんだ」
男は俺の髪を優しく撫でる。
優しく優しく、ゆっくりと動く。
また、波が来る。
俺は溶かされながら、また絶頂を迎える。
ものすごく長い絶頂で、脳が溶けそうで。
「僕は優しいし、コレは気持ちいいだろ?」
男は囁く。
「気持ち、いい」
俺は認める。
気持ちいい。
めちゃくちゃ気持ちいい。
「だから、僕から逃げたりするな」
また、俺を追い上げながら、男がいった。
ああ、波がまた来る。
「いい、すごいい、ああ、溶ける 、溶、ける」
僕は声をあげる。
「僕から逃げようなんて、するな」
男が苦しげに言った。
それは命令というより懇願のように聞こえた。
「逃げるな」
顔を挟み込まれ、目を覗かれながら言われる。
男の顔が必死で、なんだかせつなくて。
「逃げ、な、い」
俺は言った。
逃げれるとも思わなかったし、なんだか、男が俺にそう言って欲しそうに思えたから。
男は嬉しそうに笑った。
本当に嬉しそうに。
俺は、ちょっと、ときめいてしまった。
「じゃあ、ここからは僕も楽しむよ」
俺はこの快感が終わることに、ちょっとホッとした。
が、男が激しく腰を打ちつけ、つよく中をえぐり出した瞬間、後悔した。
コレはこれで、とんでもなかった。
逃げる?
逃げれるわけない。
あのスーツも射殺するって言ってたし、俺、国に見放されたみたいだし。
男は意外にも優しいし。
大体男は俺の意志だって操れる
「また違うこと考えてる」
男が咎めるように言って、僕がおかしくなるところを執拗にこすり始めた。
「そこ、ばっかり、ああ、ああ!!」
もう、わからない。
俺は叫びながら射精していた。
「逃げたりしたら許さない」
男の声が聞こえた気がした。
でも、ここからは、俺は叫びつづけるだけで。
ただ男にすがりつくだけだった。
そして、自分が逃げたくなることが起こること まだ俺は知らなかった。
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