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殺人鬼1
男は笑ってた。
俺は吐いた。
俺は耐えられなかった。
なんでこんなことが出来るんだよ。
男の目はキラキラしていた。
おもちゃを手に入れた子供みたいだった。
「刺青ってきれいだよね、これは本当に素敵だと思うよ」
男はうっとりとその刺青を撫でた。
確かに見事な刺青で、観音像が花と共に色鮮やかに彫ってあった。
「もらうね、この刺青」
男は背中から刺青を皮ごと剥がしていた。
若い男は悲鳴をあげた。
もう、背中の半ばまで、はがされて、背中に垂れ下がっている。
てらてらと光る肉がピンクで 、流れる血が溜まりを作っていて、むせかえる匂いが生臭くて、これが血の匂いだと知って。
俺は震えながら吐いた。
長く食事をしていないので、胃液しか出なかった。
男は右手をナイフに変えて、刺青の男の皮を剥いでいた。
「あんた、ヤクザだろ、泣くのはやめたら」
鼻歌まじりで皮をはいでいく。
刺青男は、失禁していた。
当たり前だ。
俺も失禁しそうだ。
「汚いなぁ」
男だけが平気だ。
刺青男は天井から吊られている。
両手を縛られ、手首でまとめられ、吊られている。
俺が吊った。
男に言われて。
「ダメだよ、あんただって散々こういうことしたんだろ?じゃあ、されてもしかたないよね」
男は刺青男に微笑みながら言う。
確かにここはこの刺青男の家で。
この地下室は防音で、吊り下げるための梁もあって、明らかに拷問用の部屋だった。
「テメエ、オレが誰か分かってんのか、後で殺されんのはテメエだぞ!」
刺青は背後を振り返り、自分の皮を剥いでいる男に向かって怒鳴った。
スゴイと俺は思った。
俺には出来ない。
俺は震えてるいるだけだ。
「知ってるよ。あんたんとこの仕事していた時期もあるし。若頭、僕、あんたのことずっと前から、いい男だと思ってたんだよ」
男はちょっと手を止めて、刺青男の頬に手を当てた。
確かに刺青男はいい男だった。
危険な感じで、すぐに暴れ出しそうな危うさがあったけれど、それが逆に甘い感じの顔立ちを引き立てていて、
男と一緒に攫うため近づいた時、俺は見とれてしまった。
ヤクザにしては趣味のいいスーツに、スゴく綺麗な靴をはいていて。
街の中を立っている姿はスゴくクールで。
多分、男も俺と同じことを思ったはずだ。
抱きたい、と。
「何度かヤっちゃおうかなと思ってたんだよね」
男は囁いた。
男は刺青男の顔をうっとりとなでまわす。
ナイフに変えた右手を、普通の手に戻して、刺青男の胸を撫でた。
そこまで刺青があった。
腕にも、脚にも
腹と首、顔と性器以外は全身見事な刺青に覆われていた。
でも、刺青男の身体は均整がとれていて、綺麗で。
エロかった。
なぜ、俺はこんな時に立てているんだろう。
そう、こんな時にも俺は刺青男に欲情していた。
恐怖でおびえ、嫌悪に吐きながらも。
男は刺青男の身体を撫でていた。
真っ裸にして吊しているから、丸見えの股間もさすった。
「漏らしたから汚いね」
男は思い出したようで、慌てて手をひいた。
男は刺青男を抱くのだろうか。
にしても、俺は背中の半ばまでまくれあがった皮膚を見て、また、吐く。
男は刺青男の唇に触れそうなくらいに顔を近づけた。
男が欲情しているのも分かった。
「でも、正直、セックスするより。こうやって殺す方が楽しい」
男はキスする距離で刺青男に顔を近づけてそう言った。
男の右手が再びナイフになる。
とろけながら変化し、銀色の刃物に変わっていく。
「でも、その顔は好きだから傷つけないであげる」
男はキスはしないで、顔を離した。
男はまた再び、背中の皮をはぎ始めた。
刺青男は絶叫する。
「分かった、テメエ、あの頭のオカシイ始末屋か!誰に雇われた?金ならいくらでも、出す、やめろ!!」
刺青男は必死に言う。
男は気にも止めない。
刺青男は絶叫し続ける。
俺は耳を塞ぐ。
「今、俺、生活のために人を殺さなくて良くなったんだよね。今は好きで殺してる。そう、あんたも好きで殺してる。これは趣味だよ」
背中の皮は剥ぎ取られた。
「全身にあるんだね、刺青」
刺青男の身体を見て、男が笑った。
刺青男はその先を知り、また悲鳴をあげた。
俺は震えながら小さくなった。
部屋の隅で丸くなる。
「大丈夫、顔には何もしないから」
優しい男の声は塞いだ耳にも聞こえた。
俺は泣きながら目を閉じた。
そして。
刺青男は死んだ。
刺青のある皮膚を全部剥ぎ取られて。
死んでいるのだと思う。
いつの頃からか、悲鳴も聞こえなくなり、動かなくなったから。
男は楽しそうに、皮膚を剥いでいた。
何時間そうしていたのかわからない。
俺は、男に呼ばれた。
「おいで」
俺は小さく身体を丸めたまま、首を振った。
耐えられない。
男がため息をついた。
「来い、早く」
その声に苛立ちがあったから、俺は立ち上がった。
男が怖かった。
言われるがまま、男の側に行った。
男はもう、手を普通の手に戻していた。
俺は吊られた刺青男からは出来るだけ目をそらした。
男は息を荒げて、俺を抱きしめた。
男にしては性急なキスをする。
床に押し倒された。
俺のすぐ隣に血だまりがあり、つるされた刺青をすべて失った刺青男の、足の裏が見える。
「早く入れたい」
男は囁いた。
男はいつになく興奮していた。
男は俺のズボンを下ろし、俺のモノが立ち上がっているのを見て笑った。
「どうせ、この男に欲情してたんだろ、コイツに入れたかったか?」
ズボンを俺の脚から引き抜き、ポケットからローションを取り出し、俺の穴をほぐしはじめた。
俺はこんな時にでも、そうされたら喘ぎ、感じ始める。
男と過ごして一週間。
毎日毎日、セックスばかりしていたのだ。
もう完全に男に馴らされてしまっていた。
「今日はゴメンね、優しくしてあげれない」
髪を撫でながら囁かれた。
焦るように回されても、俺は吐息をもらす。
情けないことに気持ちいいのだ。
男はある程度ほぐれたら、我慢出来ないかのように、男は俺の中に押し入ってきた。
「やっぱり、おまえいい」
男が吐息混じりに言う。
俺は思わず声をあげる。
俺の中は完全に男の形を覚えていて、俺は男のそれが欲しくて、腰を回してそれを味わう。
俺の頭のすぐ先には、刺青男の足先が揺れている。
乱暴に突き上げられた。
俺は身体を震わせてそれを受け入れた。
「気持ち、いい」
俺は 喘ぐ。
「いいよ、お前」
男も喘ぐ。
男は乱暴に動き、好きなように突きまくった。
でも、男にすっかり馴らされた俺の身体は、それを受け入れ 、快感に震えていた。
この男は殺人鬼なのだ。
俺は思い知らされていた。
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