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殺人鬼8
我々でも、あの男について知っていることは少ない。
年齢。本人よれば26才。
自分で名乗る名前は複数あり、記録はどこにも存在しない。
何一つ、身分を証明するものもなく、免許証もパスポートも偽造でしかない。
闇から生まれた子供達の一人だったと思われる。
戸籍もなく、産み落とされた後、悪意ある人々によって何か目的のために育てられる子供達。
内臓の売買のための飼育だったり、奴隷として売られる為だったり、その目的は様々の中で、どこかの狂ったバカが、この男を作り上げたのだ。
殺人する為の道具として
我々が注目するより前に、警察組織の中で彼は有名だった。
10代から仕事していた。
「イカレたガキの始末屋」彼はそう呼ばれていた。
ぶっ壊れたガキだが、絶対にしくじらない。
そういう評判だった。
今回の若頭殺害みたいに、皮を全身剥ぐなどは、彼の好みの手法の一つだ。
彼を育てあげたのが個人なのか、組織なのかはわからないが、警察組織が彼を認識した頃にはもう、一人で仕事をしていた。
防犯カメラに平然と姿を晒すにも関わらず、彼は捕まらなかった。
彼が関わる事件が、色々ややこしい上流社会の恥部と関係していることなどもあり、事件すら隠蔽せざるを得ないことも多かったようだ。
彼が男を好むことも知られていた。
殺す相手が若い、容姿の整った男の場合は殺してからか 、殺す前かはともかく、性交していたからだ。
街でホテルで、裏通りで、車の中で、定期的に殺される男達も彼の仕業ではないかと言われていた。
危険な男だった。
元々。
しかし、【捕食者】になったのがあの男だったことは、この国にとっては幸運だった。
突然【捕食者】になった者達は、殺人衝動に身を任せ、理性を捨て去る者が多い。
男だけは、定期的に殺す、秩序ある生活を守っていたし、我々との取引に応じられるだけの理性を残していた。
殺人衝動にたいする耐性があったということだ。
殺人鬼だったから。
それに殺すことのプロである彼は、捕食者を殺すことにおいて、他の捕食者よりもはるかに有利だった。
特殊な能力(各個体によりそれぞれ)こそあれ、捕食者達はアマチュアだった。
彼は素晴らしいハンターだった。
他の国も、自分達の協力者を手に入れてはいるようだが、噂によると、その管理には手を焼いているらしい。
理性を無くした捕食者に管理者が殺されるのはよくあることらしい。
そういう意味では、時々殺し過ぎたりはするが、週に一度の殺人を見逃したり 、高額の手当てを払うだけで彼を飼えるのは幸運だと言えた。
だが、彼は一週間前、突然高校生の少年を連れて来た。
「専用の穴にする」と性欲処理のためだ と言っていたのだが、ひどく気に入って片時も手放さない。
ペットさえ飼ったことのない男がいつまで少年を生かしておくのかと思っていたが、どんどんのめり込んで行く。
とうとう、射撃などの訓練まで始めた。
どこか、危うい男の精神が安定したのは間違いなく、最近の男は理性的だし、我々に対しても友好的にはなっている。
前までの一つ間違えば殺されるような危険な瞬間は減ってきている。
むしろ、少年について惚気続けてる姿は、ペットの自慢をしている飼い主のようだ。
初めて人間らしさを男から感じている。
しかし、男程ではないにしろ、不死身である少年が訓練を受けることは、また新しい化け物を生み出すことでもあり、我々としては不安要素ではある。
少年は男に怯えている様子はないが、彼の精神がいつまで持つか。それとも男のように化け物になるのか。
観察が必要だ。
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