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殺人鬼9
「あ、どうぞ」
インターホンを鳴らして、ドアを開けたのは少年だった。
私をリビングまで案内する。
コーヒーまで淹れてくれるのはこの子の育ちがいいからだろう。
中学生までは将来世界を期待されるようなハードルの選手だったことも調べてある。
膝を壊してからは、少しグレていた様だが、きっといつかは立ち直り、良い青年になっていただろうに。
有る意味不死身にはなっても、この子は死んだも同然だ。
「彼は?」
私は聞く。
珍しくいない。
この子を置いて行くとは随分この子を信頼し始めたのだな。
「ちょっと出てくるって」
少年は言った。
少年にも理由は言っていないのか。
まあ、何しに行ったのかはわかる。
「垢抜けたね」
私は少年に言った。
少年は赤くなった。
少年は初めてあった2週間前とは違う人間かと思うくらい、垢抜けていた。
「あの人が色々」
少年が呟く。
髪型、服装。
全てが金がかかっている。
男が自分好みに変えたのか。
それと、何だろう。
前は顔の整っただけの普通の少年だったのに、今は妖しさみたいな色気みたいなのが少年からは匂ってきていた。
あれだけ、抱かれれば、な。
昨日、訓練所のグランドでもしていたようだし。
報告は上がっている。
「俺男でもイケそうな気がしてきました」
見張っていた部下が報告がてらため息ついていた。
めちゃくちゃ色っぽい、と少年のことを言っていた。
どうせ、見張っているのが分かっているくせに
男は見せつけたのだろうな。
そういう男だ。
少年には黙っておこう。
自分の痴態が見られていたなんて知らない方がいい。
これ以上の精神的負担はいらないだろう。
「せっかくだから、彼がいない間に話をしよう」
私の言葉に少年は大人しく向かいのソファに座った。
男の趣味で揃えられたリビングは豪華なソファを挟むように、洒落たテーブルが置いてある。
男の趣味はいつもいい。
男は家具などが好きだった。
「ずっと同じとこにいたことないからね、家具なんて買ったことがなかった」
男が一度私に言ったことがある。
男が我々に協力している理由は、それではないかと思っている。
「家」が欲しかった、のだろう。
お尋ね者では定住できないから。
「彼は君に優しいか?・・・君を彼に差し出したようなものだか、私としては君を心配しているんだ。これでも」
私は苦笑しながら言った。
私は少年が殺されていた方が良かったとも思っていたし、少年が彼にどんな目にあわされていようと、助けてなどやれないのだが。
「スゴイ優しいよ、あの人。でも、今日、誰か殺す」
少年の苦しみは分かった。
「そうだな。今日は殺す日だ」
私は頷く。
一週間に一回。
男はペースを守る。
多分、今頃街で物色している。
獲物を。
「俺はまた連れて行かれる」
少年は呟く。
若頭殺害の現場に彼もいたのだ。
思い出したのだろう、真っ青だ。
両手で顔を覆う。
「何が起こっても、君のせいじゃない」
私は気休めを言った。
そう思うしかないのだ。
男は殺しを止めない。
いくら少年に優しくても止めない。
それを少年も私もわかっている。
おそらく、殺人現場で少年は抱かれる。
男の性衝動を受け止めるために。
死体の代わりに、男は少年を犯す。
元々、そのために少年はいる。
「慣れる、よ」
私は彼に言う。
人間は何だって慣れる。
殺しも、残酷さにも。
私は知っている。
しかし、少年はあまりにもつらそうで。
「・・・もしも、どうしても耐えられない時は」
私はらしくもなく続けていた。
「殺してやるから言え」
そんなことをしたら男との協力関係にもヒビが、はいる。
でも、少年にはそうしてやりたくなる程の痛々しさがあった。
私にだって感情はある。
もしも、必要ならば上手く工作して殺してやろう。
「ありがとう。・・・あんま嬉しくないけど」
少年は苦しげに笑った。
「ずっと食事もしてない。欲しくないんだ。ただずっとセックスしてる」
従属者と言われる、捕食者達とセックスして生き残った者達については、あまり情報がない。
少年の言葉は貴重だった。
「眠りはするけど、本当には眠いわけじゃない。寝なきゃと思うからねてるだけだし」
従属者も捕食者達と同じく、食事も睡眠も基本的には必要のない身体になるのか。
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