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殺人鬼10
「彼がどんなに君に優しくても彼は人間じゃない。彼に感情を向けるな。生き残ることだけ考えろ。生きていたいのなら」
私は彼に忠告する。
彼はあまりにも心をさらけ出しすぎる。
また少年なのだ。仕方ないといえば仕方ない。
でも、それでは耐えられなくなる。
彼の価値観、彼の生き方、彼の欲求。
それらに苦しむことになる。
心を明け渡してはいけない生き物なのだ、相手は。
「俺だってもう、人間じゃない。人だって殺した」
彼は苦しそうに笑った。
それはもう報告を受けていた。
彼はひどく脆そうで、私は手をさしのべかけた。
らしく、ない。
なるほど、だからか。
男がこの少年にハマった気持ちが分かった気がした。
私やあの男が属する世界に、こんなに素直に心をさらけ出す者などいない。
私は男の気持ちが分かった気がした。
「私よりずっと君の方が人間だよ」
私は心の底から言った。
助けてなどやれない。
なにもしてやれない。
この子はもうあの男の獲物だ。
でも、本当に、それがこの少年を苦しめて、この少年が本当に望むのなら、殺してやろう。
私は本当にらしくないことを決意していた。
「・・・ありがと。あんた 、良い人だな」
少年は笑った。
私は固まった。
良い人?
私が?
何をこの少年は言っていて 、自分の状況を分かっているのだろうか
玄関のドアが開く男がした。
「帰ってきたよ」
明るい声がした。
男が帰ってきたのだ。
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