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殺人鬼12
いや、確かに、かなり俺の罪悪感は楽になった。
良く知りもしない人を殺すなんて、耐えられなかったし。
悪い奴で、ソイツも何人も殺していると思えば、正直かなり罪悪感はなくなった。
それが「正しい」のかは考えたくない
ただ、楽にはなった。
「人間は理由をつけて『敵』にさえすれば、殺せるんだよな。何だって殺すことには変わりないのに」
男は皮肉っぽく言った。
多分、男が正しい。
でも、俺の心はそこにしがみつく。
コイツは悪いヤツ、悪いヤツなんだと。
でも、さすがにコレはどうなんだろう。
男は楽しそうだった。
「500数えたら追いかけるからな」
山の中で男が叫んだ声が響いた。
攫ってきた男は夜の森の中に消えている。
男は楽しそうに隠れんぼを初めていた。
男と一緒だと、人を攫うことはとても簡単に思える。
刺青男の時もそうだった。
ふと通りに背を向けて立った瞬間、車の中に引きずり込まれる。
ものの数秒だ。
一緒にいた連中は攫われことにも気づかないだろう。
視線や注意が外れた瞬間を男は知り尽くしている。
その瞬間を狙う。
攫った男は太ったのメガネをかけた40過ぎ位の男だった。
車に引きずり込んだ瞬間、薬を嗅がせて意識を失わせたのも前回と同じだった。
それは前回と同じく、俺がした。
俺は免許がないから、車が動かせないので。
男が向かったのは山の中だった。
俺の心が楽になるように、男はこの男がどう悪いヤツなのか説明してくれた。
それは人の心のない悪者の話だった。
でも。
でも。
俺は目を背けている事実がある。
目の前にいる、人の心がないことでは、この男も攫った悪者となにも変わりがないということ。
この男は好みだったと言う理由で何人もの罪のない男性を惨殺しているのだから。
でも俺は。
俺はあえてそこには目を閉じた。
「これで、お前は楽になれる?」
そう言って俺の撫でる男の指を拒絶出来ないから。
俺は俺の罪にも目を閉じる。
俺が俺が生きたいから、殺されたくないから、人を殺すことに荷担することに。
そんな男を俺に優しいという理由だけでむしろ好きでさえあることに。
俺は目を閉じる。
閉じたかった。
でも、始まったことには。
これは目が閉じれなかった。
これでは閉じようがなかった。
残酷な鬼ごっこが始まった。
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