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怪力惨殺2
「秩序型。日常生活も変化前と変わりなく送っている」
男がつぶやく。
「そう、お前と同じだな。仕事と言っても裏の仕事だ。お前と同じ」
殺人に慣れた者は捕食者になっても、殺人衝動に自我をなくしたりはしない。
それほ男が証明している。
私は男と少年と、ターゲットが今住んでいるマンション近くに止めた車の中で、話をしていた。
「仕事?ファイルには構成員としか書いてなかったぞ」
運転席の男は眉をひそめる。
後部座席に少年は移動させられていた。
会うなり、何故か男に
「お前は顔がイケてない」
とか訳の分からない言いがかりをつけられたりもしたが、多分、この少年に近づくなと言う警告なんだろう。
もちろん、近づくつもりはない。
この少年は私達のような人間には危険すぎる。
ただ、約束は守ってやろうとは思っている。
そう思ってしまうことが、この少年が危険な証拠だ。
「飼ってるだけだ。狂犬すぎて、 他のことには使えない。残酷に殺すことしか出来ない。それにこの見かけだ。一緒に連れて歩くだけで脅しになる」
ファイルの写真を手に取る。
195センチ、120キロ前後。
しかも、贅肉はない。
外国人の血が入っているのだろう、記録にはないが。
父親はいない。
「性的なサービス」を提供する仕事をしていた母親から生まれた。
3才で捨てられ、保護され、そこからは、お決まりのコースだ。
陰影の深い顔立ち、濃い眉。
凶相だ。
「悪くないな」
後部座席の少年が覗きこんで声を上げた。
ゲイの彼的な見定めなのだろう。
まあ、ハンサムと言えないこともないが。
「ソイツの悪くない、は『抱きたい』だからね、何お前こんなのも抱きたいわけ?」
呆れたように男が言って、さすがに私も動揺する。
抱きたい?
こんな男を?
この少年が?
「うるさいよ」
少年は顔を赤らめる。
少年が男に「抱かれて」いる報告は受けているので、昨日も山の中で抱かれていたことも私は知っていた。
彼等には常に監視がついている。
彼等の部屋以外は。
だから、まさか、少年の趣味がそちらだとは知らなかった。
少し動揺する。
「僕は入れさせてないからな」
一応言っておくみたいな感じで男が言った。
まあ、そうだろう。「穴にする」と言っていたから。
気を取り直す。
おそらく、捕食者になったのは半年ほど前。
週に二人位のペースで殺している。
引きちぎられた死体がこの狂犬のパターンだ。
「犯されているのか?」
男が聞く。
この男のパターンは犯してから殺すか、殺してから犯す。
そこから、斬り刻む。
「いや 、セックスの形跡はない」
私は言った。
「でも従属者がいるんだろ、セックスしなきゃ、従属者にならない」
男の問いは当然だ。
「コイツがセックスしたのは今、確認できる限り【彼】だけだ」
写真を取り出す。
メガネをかけた、繊細そうな青年だ。
大学3年生。
「男とは無関係。おそらく、まきこまれる形で男と出会い、犯され従属者になったと思われる」
私が取り出した写真を、男と少年が取り合うように見ている。
「これは、イケる」
「俺も結構好き、こういうのもありだよな、そそる」
「お前とセックスしていいのは僕だけだってわかってる?」
「俺が抱きたいのはあんただよ知ってるくせに」
二人で騒いでいる。
バカップルだ。
この二人と、この狂犬と青年が同じような関係だとは思えない。
ため息をつく。
そう、この二人も同じ。
たまたま現場に居合わせ、犯され、隷属させられているという意味では。
男と同じく、狂犬も青年を手に入れてからは、というより、青年としかセックスをしていない。
殺しがセックスの代わりになる者が多い捕食者が、セックスすることも珍しいが、狂犬に関してはそれ以前もセックスの形跡がなかった。
「インポだから、代わりに殴ってるんだよ」
暴力がセックスの代わりなんだ、あの変態は。
そんな証言もあった。
愛人、馴染みの風俗店、何一つなかった。
ただ、間違いなく、写真の青年とはセックスしているのを確認している。
「方法は任せる。捕食者と従属者、どちらも始末してもらいたい」
私は男に言った。
「了解、お仕事だな」
男はあっさり頷いた。
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