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怪力惨殺4

 記憶はひと月以上前、いや、もう時間の概念がないからわからない、けど前にさかのぼる。  その大きな男とは良く朝、公園ですれ違った。  外国人かな、と思った。  髪の色が明るめで、彫りが深く、何よりもとても身体が大きかったから。  腕の付け根や太ももだけで、ボクのウエスト位はあるだろう。  プロレスラーか何かなのかな、と思ったのだけど、着ているスーツや雰囲気が怖すぎて、コレは違うな、と。  ボクは公園で朝、絵を書いている。  描くのは鳥だ。  この公園には巣箱があって、何種類もの野鳥が住んでいる。  ボクは双眼鏡片手に、その鳥をスケッチする。  バードウォッチングが趣味だと言うと笑われる。  いいじやないか。  鳥、すごいいいじゃないか。  翼があって空を飛ぶものがボクは好きなだけだ。  そんなボクの前を男は通り過ぎて行く。  一度、男にスケッチブックをのぞき込まれたことがある。  デカい影がぬうっと前に立ちはだかって、ボクは一瞬怯えた。  無表情なグレーの瞳がボクを見下ろしていた。  ボクが描いた鳥を見て、男が少し笑った。  陰鬱な、死に神みたいな顔が一瞬和らいだ。  予想外の少年みたいな笑顔だった。  でも、それは一瞬で、それだけだった。  男は何も言わず立ち去り、ボクはなんだったのだろうかと心臓をバクバクさせていただけだった。  それからも、男は朝、公園でボクの前を通り過ぎていくだけだった。  たまに振り返り、不思議そうにスケッチブックに鳥を描くボクを見ていたこともあったけれど。  珍しかっただけだと思う。  多分、あの日、ボクがあそこに行かなけば、ボクと男はこうはならなかったと思う。    夜、近道をしようとその公園を通った。  くぐもった声が公園のトイレ前を徒通った時、裏から聞こえた。  いつもなら、そんなの気にしないのに。  通り過ぎていくのに。  なぜか、ボクはそれを確かめに行ってしまったのだ。    口の中から手を生やした人がのた打ちまわっていた。  しばらくその光景の意味がわからなかった。  千切られた手を口の中に突っ込まれているのだと気付くには時間がかかった。  それを理解したのは、巨大な男が、もう片方の腕を、服の袖ごと引きちぎった時だった。  その人は、もう記憶が曖昧で、男なのか女なのかもわからないその人は、腕を押し込まれているせいで、くぐもった声しか上げられなかった。  もう、脚が一本しか残っていないことにもボクは気付いてしまった。  獣の唸り声。  それが、その巨大な男から発せられていることにもボクは気付かなかった。  男は吠えた。  獣が喜びの声を上げるのはこんな感じなのだろうか。  残った脚が引きちぎられた。  肉を裂くのは聞いたことのないような音だった。  くぐもった声が響く。  生きている。  この人形のように手足がひきちぎられたモノが生きている人間であることが信じられなかった。    でも、コレは現実で、目の前で手足をひきちぎられているのは、現実の人間なのだ。  ボクはへたり込んでしまった。  逃げなきゃ。  腰が抜けて建てない。  男は最後に首に手をかけた。  やめて、そう思った。    まさか、そう思った。  首がねじ切られた。    骨が砕ける音がした。  口から手を生やした首は、血を滴らせながら、胴から離れ、男の手の中にあった。    

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