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情交哀夜3

 「あの化け物か、そういや、男の抱き方が知りたいとか言ってたな」  ビンゴ。  僕はバーテンに酒を奢る。  あの組の、その趣味のヤツはここに良くたまる。  あの狂犬にその趣味かなかったことは知っている。  女すら抱いていなかったらしい。  過去に何があったか知らないが、性的嗜好は人それぞれ。  本当に暴力や殺しがセックスの代わりだったのかもしれない。  でも、今は間違いなく、あの青年を相手にしていることは間違いない。  あの犬のとこの覗き見諜報員達が言っているから間違いない。  僕も覗かれてるからな。  ただ、突っ込むだけなら別に勃ちさえすれば誰でも男は抱ける。  でも、相手と良好な関係を作りたいとか思えば、知識は必要。  どこかで知識を得ようとするなら、ここだろ。  友人もいないようだし、スマホすら持っていない。家に電話すらない。  組から持たされた携帯だけ。  監禁は長期間になっている。  男と青年の間には何らかの絆は生まれているはずだ。  何らかの対策はしようとするはずだと考えた。  被害者と加害者の親愛なる絆。  まあ、コレ。  僕とガキの間にも当てはまるんで、笑えるんだけどね。  ストックホルムシンドローム。  拘束する者と拘束される者の間に生まれる歪な絆。  生き残る為に人は加害者に好意を持つ。  加害者も、嫌、加害者こそ、そんな被害者に好意を持つだろう。  特に、誰にも愛されず、孤独に生きてきた化け物ならば。  笑える。   「口が聞けるとも思わなかったね、あの狂犬。話するとこも見たことなかったしね。足りないんだと思ってたよ」 バーテンは辛辣だ。  「アッチに目覚めたのかな、てっきりインポだと思ってたんだがね」  バーテンは笑う。  「あんな馬鹿力であんなデカいヤツのモノを無理やり入れられたら、相手が本当に殺されちまう。だからちゃんと教えておいたよ。男の抱き方をね」  バーテンはウインクした。  いや、もう多分、殺すレベルのことはしているはずた。  青年が殺しの現場に居合わせて、そこで犯されたなら、何が起こるかは想像つく。  僕ですら、自分をコントロールできないのだ。  たまたま青年は運良く生き残っただけだ。  「他に知ってることある?あの男について」  僕はカウンターに頬杖をつきながら尋ねる。  僕は「情報屋」として顔を知られている。    「始末屋」としての顔はほとんど知られていない。  実際、情報屋の仕事もしていた。  政府の仕事を始めてからはやめていたけど。  まだ 顔は利く。  「・・・最近ご無沙汰だったじゃないか」  バーテンが物欲しそうな顔で僕を見る。  30過ぎだが、小綺麗なちょっといい男で、何度か抱いたことがあった。  情報を得るために。  僕が殺さず抱いた数少ない男だが、本人は自分が何と寝ていたのか知らないだろう。    今は抱いた相手はガキ以外は殺さないといけないから、次抱くとしたらこのバーテンが死ぬ時だろう。  「今は一人だけとしかしないんだ」  僕は微笑んだ。  嘘じゃない。  バーテンはがっかりしたようだった。  「なら、あの狂犬に実地でセックス教えれば良かったな。デカいし、スゴいセックスしそうじゃない?」  やめとけ。  本当に天国に連れていかれるぞ。  比喩ではなく。  「ちょっとかわいかったんだよね。相手をちゃんと気持ち良くしたいんだ、なんて言ってて。喋ってみたら以外と純情そうで・・・次声かけてみようかな」  バーテンは笑った。  「やめといた方がいい」    僕は忠告しておく。    良い情報源はいた方がいい。  「・・・そうだね、組からも気味悪がられているしね、組長が厄介払いしたがっているって」   バーテンが囁いた。  「へぇ?」  面白い話だ。  「元々、組長が拾ってきたんだよね、何かの格闘技のジムで期待されていたんだけど、手加減出来なくて、誰が相手でも殺しにいっちゃうって 。で、組長が面白いって拾ってボディガード兼、拷問係にしてたんだけどね、組長がもう気味悪がって」  「へぇ」  僕は先を促した。    「組としては厄介払いしたいんだけど、化け物みたいに強いから、変に暴れられても困るし、処置に困っているんだってさ」   「ふうん」      これは面白い話だ。  僕はいつも通りバーテンに金を握らせた。  バーテンは僕の頬を撫でた。  「一人だけ相手するのに飽きたら言ってくれ」   バーテンはうっすら微笑んだ。  「その時はあんたにお願いするよ」  生きながら、切り刻みながらやってやる。  どんな悲鳴を上げるのだろうか。  僕は微笑んだ。  バーを、立ち去りながら情報を整理する。  組はあの狂犬を切りたがっていらしい。  当たり前だ。  人間ではなくなった者は、人間の間にはいられない。  しかも死ななくなり、人間よりも遥かに強い力を持っているならば。  どんなに今まで通り過ごそうとしても、違和感は募り、人間達は排斥していく。   僕も、今は捕食者を除去するために存在を許されているが、僕以外の捕食者がいなくなったら、僕を除去する方法を人間は必死になって考えるだろう。 まあ、今でもそれは考えているだろう。  可哀想な狂犬。  ヤツは狂っていても犬だった。  人間でなくなっても、今まで通りの生活を送ろうとした。  組の一員として。  犬なりの忠誠心だったのだろう。  だけど、人間はそんなもの気にしない。  お前がいても良い組織なんて、この世のどこにもないんだ。  ・・・哀れだね。  そして、笑える。  コレは使える情報だ。  青年に狂犬が執着していること。  組が切りたがっていること。  格闘技の訓練を受けていたことも、大事な情報だ。  これらの情報を、上手く使って、狂犬を始末しないといけない。     狂犬は青年からの好意を欲しがっている。  セックスを使ってなんとかしようとしている。    スゴい気にいらなかった。  ああ、同族嫌悪ってのはこういうことなんだな、と僕は思った。  絶対殺す。  僕とガキと、狂犬と青年は違う。  違うはずだからだ。    

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