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情交哀夜4
スケッチブックと、双眼鏡と、色鉛筆。
男がくれたもの。
「この部屋、何もないから。退屈だろ。公園で鳥描くの好きなんだろ」
男はボクの顔を見ようともせず、言った。
「公園に行ってもいいの」
ボクは驚いた。
何故か部屋から出れないことが、 男と関連があることにボクは気づき始めていた。
男がボクにさせたくないことは、ボクは出来ない
のだ。
「ああ」
男は言った。
「ありがとう」
ボクは嬉しくなった。
男は赤くなった。
「あの、ボク、公園に行くなら服も欲しいんだけど」
ボクは遠慮がちに言う。
男の服で着れそうなものはなにもなく、まるでワンピースみたいに男のTシャツを着ている状況だ。
男は、手にしていた包みを思い出したように渡した。
ジーンズとトレーナーが入っていた。
下着やシャツも何枚か。
これで、公園に行ける。
「服、どういうのがいいのか分からかったから、とりあえずそれだけだ。一緒に買いにいこう。オレはスーツしか着ないから、分からない」
男がぼそぼそ言う。
「何でいつもスーツなの?」
ボクもそこは気になっていた。
男はスーツか、それでなければスウェットとTシャツだ。
間の服が全くない。
「オヤジが連れ歩くんだから、いいもん着ろって買ってくれた。そこからはその店で買ってる」
男は少し嬉しそうに言った。
オヤジってのは組長だよね。
ボクにもそれくらいの知識はある。
この人は組長が好きみたい。
「・・・あなたの服も買おうか」
ボクは提案した。
いつもヤクザのボディガードのような格好のこの人と歩くのは、ちょっと。
「オレの服を選んでくれるのか?」
男は嬉しそうに言う。
「ええ、まぁ」
あまり喜ばれたので、ヤクザの格好が嫌なだけだとは言えない。
男がおずおずとボクを抱きしめた。
この人は、セックスは平気でするのに、こういった接触には酷く臆病だ。
まるで、そんなことは誰ともしたことがなかったかのように。
そう言えば、この人はボクにキスをしない。
もしかしたら、この人はキスさえ知らないのかもしれない。
ボクはこの人から逃げることが出来ないのなら、せめて良好な関係を作ろうと努力し始めていた。
それは上手くいっているようにおもえた。
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