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情交哀夜5

 ボクは公園で双眼鏡を覗きながら、スケッチをする。  これは上手くいっているのだろうか。  ボクはため息をつく。  男は優しい。  口数はほとんどないが、本当に優しい。  外見の怖さは、スーツのかわりに一緒に買いに行った服(特別サイズの店で購入)を着てみれば ヤクザ臭さは減ったし、ボクと一緒にいる時は表情があるので、それ程怖くはない。  夜も優しい。  思いやるように抱かれる。  ボクはボクは。    男にされてボクが口走ることや 、ボクの痴態を思い出すだけで死にたくなる。   最悪から始まったセックスは今は良くなっている   巨大な男に組み敷かれる恐怖は、包み込まれるような優しさに代わった。  キスもした。  男が抱こうとボクをベッドで抱き寄せた時に、ボクの方から男の唇に、自分のから唇を触れさせた。  キスしたかったのだ。   何故か男はしないから。  男はびっくりしたように身体を震わせた。  ボクは舌を入れた。   キスなら女の子としたことがあった。  舌を絡ませた。  男が喉の奥で呻いた。  男 がボクの後頭部を掴んだ。  ボクがリードしたのは最初だけ。  男の舌が、ボクを襲ってきた。  後はもう、ただ男に蹂躙された。  そこからは、セックスの隙間にずっとキスされた。     「お前からしてくれるなんて」    男は何度嬉しそうに呟いた。     「欲しいのはオレばかりかと・・・」   男がグレイの瞳から涙さえ零した時には、さすがにうろたえた。  ボクは男に絆されている。  すっかり、なし崩し的に心を開かされている。  殺されたのに。    無理やり身体を開かされたのに。  無理やり女みたいにセックスさせられたのに。  でも、今朝も出がけにキスを強請る男に、「可愛い」とか思ってしまって。  でもでも。  ボクが一緒に暮らし、夜毎身体を繋ぐ男は殺人鬼なのだ。    「何描いてるんだ?」  誰ががボクに声をかけた  少し年下か。  20は過ぎていないだろう。  ソイツはシャープな顔立ちをしたカッコイイ奴で。  見るからに高そうな服を着て、オシャレで。  何故、ボクに構うのかわからないような奴だった。  ボクは目立たないタイプだったし、最近でこそ「可愛い、可愛い」とベッドでずっとあの男に囁かれているけれど、自分ではそうは思えない。  メガネのヲタク系だ。  背も低いし、ガリガリだし。  趣味はバードウォッチングだし。    正直、ボクに目を止めるのはあの男くらいだとは思う。  男はずっと、ボクが気になっていたと白状した。  公園でスケッチしている姿が。   「コイツ何描いてるのかと思ってたら鳥の絵で・・・なんかホッとした」  男がボクの髪を撫でながら囁いた。  「オレなんかとは違うとこにコイツいるんだなぁって」  男には鳥の絵を描くボクが、幸せな世界の象徴みたいになったらしい。  「オレみたいなんとお前が関わることないんだろうけど、でもなんかちょっとお前が見たくてずっと見てた」  だから、あの日、ボクが殺された日、ボクが現れた時驚いたのだとか。  「見られたら殺さないといけない。でも、手に入れたなら殺さなくてすむかと。殺したくなかったから犯した」  この辺の男の思考は理解出来ない。  男の中の狂気の部分だ。  ただ、殺すつもりはなかったらしい。  ただ、生まれて初めてのセックスでどうすればいいのか分からなかったと男は言った。  男は人に触れたり触れられたりするのに拒否感があるのだ、と。  「お前は平気。触りたかった。見てた時から。でも怯えられて、実際触ったらわけがわからなくなって・・・」  その結果が、惨殺なのだから恐ろしい。  「あの時は殺してしまったかと思った」  男が軋むようにボクを抱きしめたので、止めてと叫ぶ。  また骨を砕かれるからだ。  男は思ったのだそうだ、せめて死体だけでも側に置こうと・・・この辺も理解出来ない狂気の部分だ。  家に持って帰って風呂で綺麗にして、ベッドに横たえていたら、ボクが息を吹き返したらしい。  何もかもが狂った話で。  でも、そんな狂った男ぐらいだ、ボクを気にするのは。  ボクがキスしたことのある女の子だって、おもしろ半分だったし。  だから、こんな男がボクに声をかけてくるのはおかしかった。

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