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従属者3

 「絵描いたのか」  男が帰ってきて笑う。  少年みたいな笑顔だった。  でも、その手には血がついていて。  スーツににも血が。  青ざめたボクを見て、男は慌てた。  「着替えてくる」  男はシャワーを浴び、血のついたスーツは捨てた。  男はスーツくらいしか金を使うことがない、と多量のスーツを持っているが、あまりにも高すぎるのは買えないと、いっていた。  拷問や殺人で血で汚れるからだ。  ボクと買いに行った、ジーンズとトレーナー姿になれば、アメフト選手の休日のような感じで、凶悪さは減る。  男はボクといるときは笑う。  この部屋には本当に何もない。  ベッドと備え付けのクローゼットだけだ。  カーテンが辛うじてついているだけだ。  だから、いつもボク達は床に座るか、ベッドに座る。  ボクが床に広げていたスケッチを男はボクと一緒に床に座って眺める。  「この緑のは?」   「メジロ」  ボクは教える。  「これは?」   「ヒヨドリ、民家の庭に巣を作ったりするんだよ」  「上手いな」  男は感心したように言う。  ボクは赤くなる。  人に見せたことはなかった。  「鳥が好きなのか」  男が甘えたようにボクの肩を抱いてひきよせる。  男に抱きかかえるような形になる。   「うん。山に行けばもっと見れるんだけどな」  ボクの言葉に男は考えた。  「明日行くか。どこに行きたい?」  ボクは慌てる。  この人は自分が出来ることなら何でもボクのため にしようとする。  「ありがとう。でも今すぐ行きたいわけではないんだ」  ボクの言葉に男はそうか、と納得した。  そして、しばらく腕の中のボクを見下ろした。  グレイの瞳が逡巡していた。  やっと男は言った。  「なぁ、キス、していいか」  ちゃんと許可をとらなければならないと思っているようだ。  ボクは赤面する。  そんな風に尋ねられたら恥ずかしい。  もう、色々されているんだけど、恥ずかしいな。  「いい、よ」   ボクは目を閉じた。  「なんで目を閉じるんだ?」    男が不思議そうに言った。  「恥ずかしい、からかな」  ボクはそんなこと考えたことがなかった。     「恥ずかしくないし、オマエが見えないのは嫌だからオレは閉じない、オマエもオレを見ろ・・・」  男は囁いた。  目を閉じないでするキスはひどく恥ずかしかった。  グレイの瞳はボクだけを見ていた。  男は気持ち良さそうに、キスをした。  ボクも気持ち良かった。  恥ずかしかったけれど。  男は優しい目をして、僕を抱き上げた。  ベッドに連れて行かれるのだ。  「待って」  抱き上げながら、また唇にキスを落とそうとする男にボクは言った。    「どうした?」  男がベッドにボクを下ろしながら、髪を撫でながらささやく。  「あなたが人を殺すことは、辞められないのかな」  ボクは勇気を振り絞って尋ねた。  せめて、これ以上人を殺さなければ。   せめて。  この人はボクに出会うまで、この何もない部屋で何をしていたのか聞いた時いった。  「窓から外見てた」  何でもないことのように。  「ずっと?」  ボクはさすがに驚いた。  「ずっと見てたら、それでもいろんなもんが見える。閉じ込められるのには慣れてたから、窓から外見るのがガキの頃から好きだった」  この人は普通じゃない。  区切られた窓から、何かを探し続ける毎日を送り大人になった。  人に触るのも触られるのも嫌だと言うのも、怖い過去が見え隠れする。    不幸だから許されるとは思わない。  でも、もう、これ以上殺さなければ、ボクと二人でこの世界にいることを許してもらえないだろうか。  「オレは殺す以外に出来ることがないし、止めるつもりもない」    不思議そうに男は言った。  話はそれで終わりなのだとわかった。  この人は人を、殺す。  それを知っている。  罪のない人を殺す。  そんな日は激しくボクを抱くからわかる。     この人の今、優しくボクの服を脱がす指は、人の手足を生きながら引き千切る。  ボクはボクは。  「優しくする」  男は囁き、それは本当で。  だからこそ、ボクの心が千切れていた。  ボクはボクは。  選ばなければならないのだ。  そして、選択肢は一つだけだった。

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