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捕食者狩り9
「大丈夫か、大丈夫か」
あの人がボクの髪を撫でる。
傷ついた脳が回復してきて、あの人が分かる。
心配そうなグレイの瞳。
ああ、ボクはまだこの人がわかる。
「すぐ、終わらせるから。終わったら、山に鳥を見に行こう」
あの人が言う。
鳥。
翼を持ち飛ぶもの。
ボクがとても好きだったもの。
この人は、ボクがこの人以外を好きになることを禁じてしまっていることも忘れている。
ボクはもう、あまりボクである部分がなくなってしまっている。
あの人に抱かれ、喘ぎ、欲しがる以外の部分はもう、ほとんど、奪われてしまっている。
もう、何も怖くない。
怖さも奪われているから。
「 」
あの男が言った。
あの人が、少年を組み敷いている間に。
あの男はボクの隣にきて囁いた。
ボクは嫌だった。
少年にあの人がしていたことが。
あれはセックスだった。
あの人がボク以外に触れるのは嫌だった。
でも、もう、あの人に「嫌」だと言うこともボクには禁じられていて。
男の言葉は、思考が奪われたボクの中にも落ち込んできた。
ボクはあの人を裏切ることは出来ない。
そう禁じられているから。
でも、まだ禁じられていないこともある。
ボクは握った銃を持ち上げた。
あの人はボクに万が一のために銃を持たす。
ボクは撃てやしないのに。
でも、持つことを強要されているのて持つ。
でも、この銃は違う。
あの男が取り替えた。
ボクに握らせた。
あの人は気づかない。
ボクが違う銃を持っていることに。
あの人は気付かない。
ボクがほとんど消えていること。
あの人は分からない。
ボクが本当にあなたを愛していること。
あなたがボクから奪う以上に、 ボクの方があなたを奪いたいと思っていること。
「愛している」
ボクはあの人に微笑んで言った。
ボクの言葉にあの人が目を見張った。
ボクはあの人の頭に向けた銃の引き金を引いた。
あの人の頭がのけぞった。
ボクは微笑んだ。
ボクはあなたを裏切れない。
でも、これは裏切りじゃない。
これは愛だ。
あなたはボクがあなたを愛することを禁じられない。
ボクはあなたを手に入れたい。
「あの肉片入りの弾だ、内部で留まり、動きを止める、アイツの頭に撃て 。僕がアイツを殺してやるよ。そうすれば、アイツはもう、お前だけのものだ」
あの男が囁いたのだ。
そう、この弾ではあなたは死なない。
でも、これであなたをあの男が殺してくれたなら、あなたはもうボクだけのものだ。
ボクがボクである内に、あなたをボクだけのものにしたかった。
あの人が頭を抱えて叫ぶ。
それでも自分を撃ったボクを膝にのせたままだ。
ツライ?
ごめんね。
「先に行くね」
ボクは微笑んだ。
ボクは銃を自分の頭に向けてた。
銃弾は2つあり、この銃弾ならばボクは死ねるとあの男はいっていたから。
あの人は殺せないけど、この銃弾はボクを殺せる。
肉片が頭の中で拒絶反応を起こし、ボクの頭が爆ぜると。
ああ、なんて欲深いのだろうボクは。
化け物でも愛した。
奪われても愛した。
でも、本当はボクが奪いたかった。
ボクがあなたを全て欲しかった。
誰も気づかぬ場所で生きていて、誰からも省みられることなどないと思っていた。
それでいいと思っていたはずなのに。
全てを奪ってしまいたいほどに、人を愛さずにはいられない、惨めで哀れな生き物は、このボクだ。
「愛してる」
ボクは引き金をひいた。
グレイの瞳がボクを映していた。
綺麗な目だとボクは最期に思った。
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