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捕食者狩り10

 俺は意味が分からなかった。  あの子が狂犬を撃ち、続いて自分の頭を撃った。  そして、あの子の頭は爆ぜるように爆発した。  それはあっという間の出来事で。  「よし、ハマった」  そうあの人が呟いたから、あの人のせいだとわかった。  あの人が俺に言わないですることは、俺に言えないことなのももう学習していた。  「あんた、あの子に何を!」    俺はあの人に怒鳴った。   「殺さないって、助けるって!なんであんなひどいこと!!」  あの人は冷ややかな目で俺を見た。  ぞっとするほど冷たい目だった。  「僕はただ、あの子に選ばさせてやっただけだ。狂犬に意志を奪われて、肉人形となってただ抱かれるだけの終わらぬ日々を送るか、それとも自分の意志がある間に、好きな男を殺して自分のモノにするか」  あの人は俺の顎をつかんで顔を覗き込む。  「お前が可愛い。だから何をしても、何を言っても許してやるし、お前の意志は僕は縛らない。でも、どうにもならないことがあるってことはいい加減学習しろ。お前が望むようなハッピーエンドはあの子にはなかったんだ」  俺は。  俺は。  俺は。   「狂犬が死んでもあの子の意志は縛られたままだし、あの子の身体は夜毎狂犬を求めて苦しんだだろう。あんだけ毎日のように狂犬のデカいのぶちこまれてりゃ、もう中毒になってる」  何より心が求めただろう。  あの子はあの恐ろしい狂犬を間違いなく愛していた。  苦しみながら。  「・・・あの子の願いは、自分のところへあの狂犬を連れて来てくれることだよ。あの子に同情してるならそうしてやれ」   あの人は言い切った。  俺は・・・。  狂犬は頭のなくなったあの子の死体を抱えて吠えていた。  泣き叫んでいた。  狂犬のたった一つの宝物。  「頭の中で、肉片が蠢いていて、動けないはずなんだがな」  あの人は呆れたように言う。  「片腕奪って、脳にぶち込んで、大事なもんぶち壊して、これでやっと五分。どんな化け物だ、あの狂犬」  あの人が呟いた。  「じゃあ、殺して来るよ、僕は正義の味方だからな」  あの人は俺にキスをした。  舌を淫らに使う、ヤらしいキスだった。  「終わったらヤるからな・・・」  あの人は俺の髪を撫でながら言った。  そして、あの人は狂犬の方へ向かうために階段をおりて行った。  あの人の手段は正直認められない。  俺を犠牲にして、その間にあの子をたぶらかし、あの子の思いにつけ込んで、狂犬の身体の自由を奪う。  でも、でも、確かに。    他にどうすることができたというのだ。  そして、今、あの人はあの狂犬に立ち向かおうとしている。  そして、これだけやっても、五分なのだ。  俺にはあの人を責められない。   俺はあの人に正義の味方であってくれと望んだからだ。  あの人なりにそれを実行してくれているからだ。  俺はあの人を見つめるしか出来なかった。        

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