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捕食者狩り11

 「さあ、始めようか」  僕は狂犬に言った。  狂犬はあの子の死体をそっと床の上に置いた。  大切に、そっと。  狂犬の全身が震え、汗が噴き出しているのに、僕は全くこの狂犬に安心出来なかった。  綺麗なグレイの瞳から涙を流し、恋人の手にそっと何度となく口付ける狂犬は、悲しみにくれるマトモな男のように見えた。   ただ、デカいだけの。   そんなワケがないのに。  「人間みたいな真似するなよ、化け物」  僕は鼻で笑った。  「お前がコイツに銃を渡したんだな」  深く低い声がした。  「・・・引き金を引いたのは彼の意志だし、その意味さえお前には理解出来ないだろ、化け物」  僕は右手を刀に変える。  銃は絶対に外さないタイミングで撃たなければ。  「・・・理由なんて、お前のせいだとわかっただけで十分だ」  狂犬は笑った。  憤怒は、狂犬の顔を全身を赤く染めた。  目をつり上がらせ青く光らせた。   髪の一本一本が逆立っていく。  膨れ上がる筋肉の筋。  どうみても、片腕の鬼だった。   狂犬は咆哮を上げて僕に殴りかかってきた。  腕が一本なことは、攻撃がよみやすいということだ  僕はなんなくよけた。  地面にドデカい穴があく。 殴られた場所が消え去ったのだ。  これは。  一発でも殴られたら、僕は消えてしまうかもしれない。   僕の銃より、コイツの殴るモノを消す能力は範囲が広い。  まずはその腕を斬り落とさないと。  僕は狂犬が再び飛びかかって来た時、あえて踏み込みその腕を切り落とした。  そして、その腕を蹴る。  遠くへ飛ばした。  これで、右腕を銃に変えて撃てば・・・。  狂犬は飛ばされた腕を気にもせず、僕の肩に食いついてきた。  僕の右手が肩から食いちぎられた。  これでは銃が撃てない。  デカい身体、そのものが僕の身体を拘束する。  狂犬の膝が、僕の内臓を押しつぶしていく。  確かに、狂犬は腕がなければ僕を殺すことは出来ないか、僕をいたぶることはできるのた。  「・・ ・ふざけんな、男に組み敷かれるなんてゴメンなんだよ」  でも、僕はこうなることは想定していた。  組み付かれたら負けることも。  だから。      僕はポケットからソレを取り出し、スイッチを押した。  出来れば、使いたくなかったんだけどな。  爆弾はきちんと作用した。  僕も男も吹き飛んだ。     

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