67 / 76
捕食者狩り11
「さあ、始めようか」
僕は狂犬に言った。
狂犬はあの子の死体をそっと床の上に置いた。
大切に、そっと。
狂犬の全身が震え、汗が噴き出しているのに、僕は全くこの狂犬に安心出来なかった。
綺麗なグレイの瞳から涙を流し、恋人の手にそっと何度となく口付ける狂犬は、悲しみにくれるマトモな男のように見えた。
ただ、デカいだけの。
そんなワケがないのに。
「人間みたいな真似するなよ、化け物」
僕は鼻で笑った。
「お前がコイツに銃を渡したんだな」
深く低い声がした。
「・・・引き金を引いたのは彼の意志だし、その意味さえお前には理解出来ないだろ、化け物」
僕は右手を刀に変える。
銃は絶対に外さないタイミングで撃たなければ。
「・・・理由なんて、お前のせいだとわかっただけで十分だ」
狂犬は笑った。
憤怒は、狂犬の顔を全身を赤く染めた。
目をつり上がらせ青く光らせた。
髪の一本一本が逆立っていく。
膨れ上がる筋肉の筋。
どうみても、片腕の鬼だった。
狂犬は咆哮を上げて僕に殴りかかってきた。
腕が一本なことは、攻撃がよみやすいということだ
僕はなんなくよけた。
地面にドデカい穴があく。
殴られた場所が消え去ったのだ。
これは。
一発でも殴られたら、僕は消えてしまうかもしれない。
僕の銃より、コイツの殴るモノを消す能力は範囲が広い。
まずはその腕を斬り落とさないと。
僕は狂犬が再び飛びかかって来た時、あえて踏み込みその腕を切り落とした。
そして、その腕を蹴る。
遠くへ飛ばした。
これで、右腕を銃に変えて撃てば・・・。
狂犬は飛ばされた腕を気にもせず、僕の肩に食いついてきた。
僕の右手が肩から食いちぎられた。
これでは銃が撃てない。
デカい身体、そのものが僕の身体を拘束する。
狂犬の膝が、僕の内臓を押しつぶしていく。
確かに、狂犬は腕がなければ僕を殺すことは出来ないか、僕をいたぶることはできるのた。
「・・ ・ふざけんな、男に組み敷かれるなんてゴメンなんだよ」
でも、僕はこうなることは想定していた。
組み付かれたら負けることも。
だから。
僕はポケットからソレを取り出し、スイッチを押した。
出来れば、使いたくなかったんだけどな。
爆弾はきちんと作用した。
僕も男も吹き飛んだ。
ともだちにシェアしよう!