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番外編 翼あるもの

 指を手で千切る。  まさかそんなことをされるなんて思っていないから、大抵のヤツは驚く。  オレの身体のデカさでまず人は驚き恐れ、指を千切れば言いなりになる。  それで、大抵のヤツはペラペラしゃべりだすし、喋らないヤツは目でもえぐってやればいい。  そこまですれば、何でも話してくれる。  殺すヤツにはさらに遠慮なく、身体を千切っていく。  それが俺が組でしている仕事だ。  後はオヤジのボディガード。  組長の護衛だ。  人を千切ることは、昔は何とも思わなかった。  今は楽しい。  身体がおかしくなってからはさらに。  傷がすぐ治ったり、力がさらに強くなったり、殴ったモノが消えたりするようになってからは、人を千切ると、股間が立ち上がるようになった。  俺のここは使えないと思ってたから驚いた。  生まれて初めての射精をこの年でした。  確かに気持ちいい。  だから、色んなヤツがこれのためにバカをやる理由がやっとわかった。  だけど、やはり、誰かに触りたいとは思わなかった。  人を千切って勃てて、自分で出す。それで十分だった。  人に触られんのはゴメンだ。  身体がおかしくなってから消えてしまったけれど、人に触られると、背中に押し付けられるタバコの匂いを思い出す。  閉じ込められた窓を思い出す。  だから、身体が変わって、そこが勃つようになっても、別になんとも思わなかった。  誰かを殺す毎日も何も変わらない。  ただ、仕事以外でも、殺すようになったぐらいだ。  千切って殺して、勃てたヤツを自分で出す。  そして、殴ったら死体は消える。  仕事だと処理が大変な分、プライベートでは消せるから楽だった。  それだけ。  それだけの毎日だった。  公園でソイツを見つけた。   オレは目で映る全てのモノが解る。  これが特殊な能力だとは知らなかった。  大抵の人間は目に映るものの大体をぼんやりととらえているらしい。  注意しなければ、見えていてもわからないのだそうだ。  話をしている人間を見ている時はその人間だけにピントが合っていて、隣の机の人間が手にする本は見えていても見えていないらしい。  オレは全部見える。  オレは同じ光景しかない窓を、閉じ込められずっとみていた。  窓から見えるのは壁だけ。  壁しか見えない光景と、わずかばかりの空を。  少しでも何か変わるものがないかと見つめ続けていたから、ほんの僅かな変化すらとらえられるようになった。  影の位置、鳥の数、影の濃さまで。  それが、こういうことができるようになったせいかもしれない。  だから、ソイツを見つけたのも公園に入ってすぐだった。  双眼鏡を覗き込み、スケッチブックに何か一生懸命描いていた。  見ているものが鳥なのはすぐわかった。  鳥、見ているのか。  オレも見てた。  オレが見てたのは壁だから 、鳥は止まってはくれなかった。  でも、鳥が壁を横切るように飛ぶのがすきだった。  羽根があって、どこへでもいく。  閉じ込められているオレとは違っていた。  ソイツが鳥を見ているのがなんか、わかった。  羽根があって空を飛ぶものだからだ。  見ているだけな理由もわかった。  見ているだけなら、傷つけないからだ。  飛んでいて欲しいからだ。     ソイツはメガネをかけていて、生真面目そうで、細くて。  小さな鳥みたいにすぐ死んでしまいそうで。  メガネの下の睫毛が長いことも、小さな少女のような唇も、ボサボサの髪も、ちゃんと見えていた。  誰も千切っていないのに、オレの股間が熱くなった。  触りたいと思った。  あの細い首や、柔らかそうな唇に。  でも、だめだ。  見るだけだ。  千切ってしまったらいけないから。  見ているだけなら、傷つけない。  オレはソイツが鳥を見るように、ソイツを見ることにした。    あまり真剣に描いているから、一度スケッチブックを覗き込んでしまったけれと、オレはソイツを見るだけて良かった。  ソイツを見ていると何故、股間が熱くなるのかはわからなかった。    無性に髪や唇に触れたいと思うこともあったけれど我慢した。  あれは羽があって飛ぶものだ。  横切ることを窓の中で楽しみにしていた鳥と同じだ。  触って壊してしまったら、もう二度と見れなくなる。  ただ、夜思い出して、何故か熱くなるモノを自分で出すはめになるのには閉口した。    アイツは男なのに  オレは女も抱いたこともない。  男を抱くことがあるのは知っていたし、少年院でもそういうことをしているヤツらを見たこともあった。  ケツに突っ込んでた。  女のあそこに突っ込んでいるヤツらを見た時と同じで、なんとも思わなかった。  オレが出来ないことを笑うヤツらもいたがどうでも良かった。  殴ったり千切ったりする以外で、誰かに触るのはゴメンだった。  でも、アイツのケツに入れることを考えたら、いくらでも勃った。  手でするよりもいいのかもしれないと考えたら、止まらなくなった。  でも、オレは絶対に見る以上のことはしなかった。  あれは鳥だ。  オレのとこにはいない、横切るだけのものだ。  見るだけならいい。  オレはアイツを見るためだけに公園を通った。        

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