4 / 38

第4話

 滞りなく業務を終え、相変わらずくたくたになって家に帰ると鍵が開いていた。  あのホスト、鍵をかけて帰らなかったのか。  思わず舌打ちをして、ハッとする。居間の明かりは煌々としているし、何ならアオトの高そうな靴もまだある。  そっと居間のドアを開けると、男がソファで体育座りをしている。 「……」 「おかえり」 「……なんでいるんだろうか?」  堂々たる態度で俺に挨拶をした男は、昨夜拾ってきたホストだ。  のんびりと映画を見ながら休日を謳歌していたようだ。 「自分が言ったことを忘れた?」 「なんだっけ?」 「ふうん」  アオトがゆったりと立ち上がる。身長はほとんど変わらない。いや、アオトの方がちょっと高い。  美しいお顔に見つめられ、思わずたじろぐ。  出勤前に自分が何を言ったのか全く思い出せない。  唇がちょっとかさついている。リップクリーム、どこかにあったかな。  お手入れしたらきっと柔らかくなる。  アオトとの間でリップ音が鳴った。  よもや己の唇が鳴らしたとは思いもせず、はた、と瞬きをする。 「セックスしたいなあ、優ちゃん」  アオトの手が股間をやんわり揉んでいる。男なら気持ちいところを知っていると言わんばかりだ。  そこでやっと思い出した。出勤前、面倒臭くなって俺と付き合ってもらおうかな、なんて言ったど阿呆がいたことに。  アオトは口の端を吊り上げて、俺の反応を見ている。  ただの勘だが、アオトはたぶん男とヤったことない。物心ついた時から女が尽きなかったタイプだ。  何しろ顔もいいし声もいい。  相手の意思を伺うように話すくせに、拒否権を与えないところとか。 「アオトは男とできるの?」 「アオトじゃなくて、傑だよ。碧宮 傑」 「本名教えてくれるんだ」 「付き合ってる人には教えるよ。それで、質問の答えだけど、男、というか優とならできる。してみたいな」  好奇心でしたいだなんて、俺が男じゃないと言われない台詞だ。  日頃より、この男に抱かれたがっている女性に思わず謝罪をする。  ポッと出のくせに抱かれてしまってごめんなさい。 「今日は無理」 「ええ……なんで?」 「君を運んだせいで全身筋肉痛だから」 「それは優ちゃんが勝手に……」 「明日俺の代わりに出勤してくれるなら考える」 「ヤりたかったのに」  むくれている頬をつん、と突く。突いてから、あまりの柔らかさに何故か動揺してしまった。 「明日なら考えてみる」 「早く帰ってくるよ」  流れるようにこめかみにキスされる。 「それ、お姫様にもやってるだろ」 「こめかみフェチなんだよね」  にっこり笑ったアオトにまたこめかみにキスをされる。  俺は困ったことになったなとため息を吐いた。

ともだちにシェアしよう!