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第4話
滞りなく業務を終え、相変わらずくたくたになって家に帰ると鍵が開いていた。
あのホスト、鍵をかけて帰らなかったのか。
思わず舌打ちをして、ハッとする。居間の明かりは煌々としているし、何ならアオトの高そうな靴もまだある。
そっと居間のドアを開けると、男がソファで体育座りをしている。
「……」
「おかえり」
「……なんでいるんだろうか?」
堂々たる態度で俺に挨拶をした男は、昨夜拾ってきたホストだ。
のんびりと映画を見ながら休日を謳歌していたようだ。
「自分が言ったことを忘れた?」
「なんだっけ?」
「ふうん」
アオトがゆったりと立ち上がる。身長はほとんど変わらない。いや、アオトの方がちょっと高い。
美しいお顔に見つめられ、思わずたじろぐ。
出勤前に自分が何を言ったのか全く思い出せない。
唇がちょっとかさついている。リップクリーム、どこかにあったかな。
お手入れしたらきっと柔らかくなる。
アオトとの間でリップ音が鳴った。
よもや己の唇が鳴らしたとは思いもせず、はた、と瞬きをする。
「セックスしたいなあ、優ちゃん」
アオトの手が股間をやんわり揉んでいる。男なら気持ちいところを知っていると言わんばかりだ。
そこでやっと思い出した。出勤前、面倒臭くなって俺と付き合ってもらおうかな、なんて言ったど阿呆がいたことに。
アオトは口の端を吊り上げて、俺の反応を見ている。
ただの勘だが、アオトはたぶん男とヤったことない。物心ついた時から女が尽きなかったタイプだ。
何しろ顔もいいし声もいい。
相手の意思を伺うように話すくせに、拒否権を与えないところとか。
「アオトは男とできるの?」
「アオトじゃなくて、傑だよ。碧宮 傑」
「本名教えてくれるんだ」
「付き合ってる人には教えるよ。それで、質問の答えだけど、男、というか優とならできる。してみたいな」
好奇心でしたいだなんて、俺が男じゃないと言われない台詞だ。
日頃より、この男に抱かれたがっている女性に思わず謝罪をする。
ポッと出のくせに抱かれてしまってごめんなさい。
「今日は無理」
「ええ……なんで?」
「君を運んだせいで全身筋肉痛だから」
「それは優ちゃんが勝手に……」
「明日俺の代わりに出勤してくれるなら考える」
「ヤりたかったのに」
むくれている頬をつん、と突く。突いてから、あまりの柔らかさに何故か動揺してしまった。
「明日なら考えてみる」
「早く帰ってくるよ」
流れるようにこめかみにキスされる。
「それ、お姫様にもやってるだろ」
「こめかみフェチなんだよね」
にっこり笑ったアオトにまたこめかみにキスをされる。
俺は困ったことになったなとため息を吐いた。
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