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第8話
「どうだった? 男」
「男っていうか……優ちゃんがかわいいことはわかったよ」
ふたりともシャワーを浴びてさっぱりして、ベッドに潜った。
ふたりとも裸で、足を絡ませていた。冷たい体温が心地いい。部屋の中は傑が吸った煙草の匂いが微かに残っている。
「それならいいよ……」
久しぶりのセックスで疲れきっている。明日休みでよかった、と思うと同時に体力の低下をひしひしと感じた。
倦怠感に身を任せていると、美しい顔が近づいていくる。何か言いたげな顔にどきどきしていると名前を呼ばれる。
「ねえ、優ちゃん」
「なに」
「お金貸してくれない?」
「……」
「俺の彼氏なら、貸してくれるよね?」
「……今までの女にもそうしてたわけ?」
「みんな喜んで貸してくれてた」
「……」
そこでやっと思い出した。この神がお造りになった顔の持ち主が、とんでもなく悪い男だということを。
「俺より稼いでるくせに何言ってるんだ……」
「端金ですよ」
じろっと睨みつけると傑は悪びれた風もなく笑った。
「返ってくる保証もないのにNo.1ホストに貸す金はないよ」
「保証があればいいの? 借用書ぐらいなら書くよ」
もう一度睨んでおくと、傑はつまらなさそうに枕に顔を埋めた。
「体で返すから……」
「No.1の言葉とは思えないね」
「歴代最高の財布の紐の硬さ」
「なんとでもお言い」
じっとりと榛色に見つめられ、俺は思わず「いくら欲しいの」と言いそうになった。
危ない。
しかし、俺は好きな顔には強請りたい。
与えて嬉しそうな顔だってもちろんみたいが、無理難題を押しつけて、困っている顔だって見たい。
「三ヶ月、女と寝ないならその間だけ貸してあげてもいいよ。借用書はもちろん書いてもらうけど」
拾った礼として付き合っているが、期間の制限をかけていなかったから、ちょうどいい機会だと思った。本当に付き合うつもりもなかったし、これで別れても未練はない。
「優ちゃんがいるのにお姫様と寝るわけ……」
「あるでしょ」
「うん……」
形の良い眉が顰められる。その顔に満足して、電気を消した。
「おやすみ」
「おやすみ……」
静かになった傑に、俺はすっかり金のことは諦めたのかと思っていた。
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