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第15話

 バーテンダーだってビアガーデンに行きたい。  しかし、だいたいのビアガーデンというのは終電ぐらいで終わってしまうのだ。  そんな界隈にも救済措置として深夜のビアガーデンというものが存在する。  知り合いと遭遇するのはお決まりの流れだ。それが嫌であまり顔を出したことがない。  それでも、暑い日はビールが飲みたくなる。特に今日のような夜まで暑い真夏日は。  三角くんと山田さんと連れ立って、屋上の会場にいくと、大分賑わっていた。考えることはみんな一緒のようだ。 「おっ、藤崎くん。珍しいね」  知り合いに挨拶に行ってしまった二人のビールを受け取っていると、吉澤さんが声を掛けてくれる。  吉澤さんは同業の先輩だ。物腰柔らかな口調と相まって茶目っ気もたっぷりある。女性客にもたいへん人気があるし、聞くのも話すのも上手い。  オーナーは吉澤さんを「元ヤン」と称しているが、真偽の程は定かでない。 「どうしてもビールが飲みたくて」 「今日は暑かったもんね」  会場の隅でやたら目立つ集団がいる。お姫様抜きで気兼ねなく仲間内だけで来たホストたちのようだ。  その中でも一際目立つ容姿の男が目にとまる。最近すっかり見慣れた金髪と長い体に細い腰。     傑だ。 「ホストうるさいねえ」  三角くんは店員に礼を言いながらビールを受け取り、ホストたちに文句を言っている。 「そうだね」  苦笑して適当に同意する。帰ってこない山田さんは放っておいて、ふたりでジョッキをぶつけてビールを煽る。キンキンに冷えたジョッキと細かい黄金の泡。  最高の真夏日である。 「うっま!」 「おいしいね!」  アルコールが心地よく回り始めた頃、夜はこれからだぜとばかりに会場のテンションもあがっていく。  会場を見渡した三角くんは知り合いを見つけたようで、ジョッキを飲み干すとどこかに行ってしまった。  今日は吉澤さんぐらいしか知り合いがいないので、何か食べようかしらとメニューを眺めていると背中に誰かがぶつかった。  ぶつかってきた人間を確認することはない。酔っ払いというのは時々盛大に人にぶつかってくる生き物だ。  ソーセージでも頼もうと顔を上げて、ようやく自分の隣に誰かが立っていることに気がついた。 「優ちゃん」  アルコールで蕩けた榛色の瞳が俺を見下ろしている。 「……今ぶつかった?」 「わざと」  柔らかそうな唇が薄い笑みを浮かべて、隣の席に座ってくる。  お仲間はいいのかよ、という言葉は飲み込んだ。  ホストもNo. 1がいない方が気楽だったりするのかもしれない。

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