15 / 38
第15話
バーテンダーだってビアガーデンに行きたい。
しかし、だいたいのビアガーデンというのは終電ぐらいで終わってしまうのだ。
そんな界隈にも救済措置として深夜のビアガーデンというものが存在する。
知り合いと遭遇するのはお決まりの流れだ。それが嫌であまり顔を出したことがない。
それでも、暑い日はビールが飲みたくなる。特に今日のような夜まで暑い真夏日は。
三角くんと山田さんと連れ立って、屋上の会場にいくと、大分賑わっていた。考えることはみんな一緒のようだ。
「おっ、藤崎くん。珍しいね」
知り合いに挨拶に行ってしまった二人のビールを受け取っていると、吉澤さんが声を掛けてくれる。
吉澤さんは同業の先輩だ。物腰柔らかな口調と相まって茶目っ気もたっぷりある。女性客にもたいへん人気があるし、聞くのも話すのも上手い。
オーナーは吉澤さんを「元ヤン」と称しているが、真偽の程は定かでない。
「どうしてもビールが飲みたくて」
「今日は暑かったもんね」
会場の隅でやたら目立つ集団がいる。お姫様抜きで気兼ねなく仲間内だけで来たホストたちのようだ。
その中でも一際目立つ容姿の男が目にとまる。最近すっかり見慣れた金髪と長い体に細い腰。
傑だ。
「ホストうるさいねえ」
三角くんは店員に礼を言いながらビールを受け取り、ホストたちに文句を言っている。
「そうだね」
苦笑して適当に同意する。帰ってこない山田さんは放っておいて、ふたりでジョッキをぶつけてビールを煽る。キンキンに冷えたジョッキと細かい黄金の泡。
最高の真夏日である。
「うっま!」
「おいしいね!」
アルコールが心地よく回り始めた頃、夜はこれからだぜとばかりに会場のテンションもあがっていく。
会場を見渡した三角くんは知り合いを見つけたようで、ジョッキを飲み干すとどこかに行ってしまった。
今日は吉澤さんぐらいしか知り合いがいないので、何か食べようかしらとメニューを眺めていると背中に誰かがぶつかった。
ぶつかってきた人間を確認することはない。酔っ払いというのは時々盛大に人にぶつかってくる生き物だ。
ソーセージでも頼もうと顔を上げて、ようやく自分の隣に誰かが立っていることに気がついた。
「優ちゃん」
アルコールで蕩けた榛色の瞳が俺を見下ろしている。
「……今ぶつかった?」
「わざと」
柔らかそうな唇が薄い笑みを浮かべて、隣の席に座ってくる。
お仲間はいいのかよ、という言葉は飲み込んだ。
ホストもNo. 1がいない方が気楽だったりするのかもしれない。
ともだちにシェアしよう!