18 / 38

第18話

 肩に乗る傑の体温が心地よくて、ときどき眠りに落ちかける。  差し入れでもらった、と傑が持って帰ってきたシャンパンで、ほろほろと酔いながら海辺の街で男女が恋する映画を見ていた。  足の上に投げ出された白いふくらはぎ。  我が物顔で履いているのは俺の夏用のステテコだ。  勝手にタンスを漁って「おじさんくさいね」とか言っていたが、気に入ったらしい。  手持ち無沙汰で、やわらかい肉を撫で、足先をくすぐり、ふとももへと手を這わせる。  うちもものやわらかい肉を堪能していると、くすぐったそうに身を捩った。 「えっち」  全然嫌そうじゃない顔で起き上がって、木にしがみつくコアラのように抱きしめられる。  Tシャツをめくって腹を撫でて、ふと気がついた。 「肌艶よくなった?」 「ふふん。優ちゃんのおかげ」  一ヶ月でそんなに変わるのだろうか、と思って顎をとらえた。  ぷるぷると潤んでいるくちびると、酒精で色づいた頬。  意識して見ると、出会ってすぐに触れたときより肌のキメが細かい気がする。  たった一ヶ月、されど一ヶ月。  今まで一体どんな生活をしてきたか知らないが、俺の家によく来るようになって生活が改善されたらしい。 「ハマりそう……」 「何に?」 「傑の肌を育てるのに」 「目一杯育てちゃってくださいよ」  なぜか偉そうな傑は、顎をとらえていた指に指を絡めてくる。  そういえば、水仕事をしていないのに荒れていた手も綺麗になっている。  恋人みたいな距離感にもそろそろ慣れてきた。  傑はスキンシップ過多だが、かといって会うたびセックスをしなくてもいいらしい。  ただ、スキンシップの一環に抜きあいが入っているから、たびたび股間を弄られて、その気になって散々触り合ってしまう。  誓約書のせいで傑は浮気できない。  おかげでほぼ毎日一緒に食事をし、同じベッドで抱き合って寝る。  朝は一緒に朝食をとって仕事に行く。  びっくりするぐらい恋人のお手本のような生活を送っている。  映画を見終わっても、傑はしばらく動かない。  映画をぼんやりと反芻しているのか、ただくっついていたいだけなのかはわからない。 「優って運転免許持ってるの?」 「あるよ」 「海行きたいな」  耳たぶにキスされる。この時期に海かあ、とは思わなかったが、タイミングを逃したら寒いだろう。  今ならそんなに人もいなさそうだし、デートするにはちょうどいいかもしれない。  何しろ俺の恋人様は世界で一番顔がいいので。 「いいよ。休み合わせられそう?」 「次の月曜日、休みにしてある」  え、と思っていると傑が悪戯っぽく笑った。 「優ちゃんと過ごそうと思って」 「そ、そっか……運転がんばるね」 「車は俺が借りておくよ」  初めての遠出に心が浮き足立つ。傑も楽しそうにハミングしながら、近場でレンタカーを借りられる場所を探している。 「優ちゃん、ちょっといい車借りていい?」 「いいけど、ナンバーがれなの恥ずかしくない?」 「たしかに……」  一瞬神妙な顔して考え込んだが、すぐにスマホを操作し始めた。  かくしてナンバープレートが「れ」あるいは「わ」のちょっといい車でのドライブが決まった。

ともだちにシェアしよう!