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第22話

 浮気しない代わりに金を貸す。  それが最初にした約束。数枚の借用書を片手に少し感慨深くなった。  今日は約束の三ヶ月目だった。  傑は本当に三ヶ月間女の子と寝なかった。  隠すのがうまいのかと思ったが、そういうことでもないらしい。  この三ヶ月で貸した金は六桁には達していないが、そのかわり一文たりとも返ってきてもいない。  金をせびれなくなるのだから、俺と傑の関係はここまでだ。  楽しかった。生活リズムがほぼ一緒のせいか一緒にいられる時間も長くて、お互いストレスがない。  傑は俺と半同棲し始めてから、朝ごはんをしっかり食べられるようになった。  べろべろになって帰ってくる日は以前より減ったらしい。俺に合わせて寝ているせいか、肌艶もよくなったし、全体的に毛が増えた。ついでに筋肉も。  誓約書のせいで減ると思っていた売り上げも順調に右肩上がりらしい。  傑は目立つ。どこで誰が見ているかわからないから、街中でデートらしいことはできない。  そのおかげで家での時間が増えた。映画を一緒に見たり、本を読んだり、だらだらしたり。   好きなもの、嫌いなものが浮き彫りになっていくのは純粋に楽しい時間だった。 「傑、合鍵返してくれる?」 「なんで?」 「え、お金貸さなくなるから……?」 「ん?」  国宝級の顔がとっても不思議そうな顔をしている。 「三ヶ月終わったし、付き合ってる意味なくない?」 「……俺と一緒にいるのいや?」 「そんなことないよ。楽しかった」 「セックスは?」 「いつもきもちいーよ」 「じゃあ、別れる必要なくない?」 「え」 「これからもよろしく」 「……お金はもう貸さないよ?」 「ケチ」  それだけ言うと、メッセージアプリでの女の子たちとのやりとりに戻っていく。  シャワーに入りたてて、ちょっと濡れている傑の頭をぼんやりと眺めた。  現実に心が追いつかない。  俺はまだ傑の彼氏でいられるらしい。  胸の奥がくすぐったい。テーブルに突っ伏して顔を隠した。ニヤニヤしている顔を見られたくなかった。  ちら、と見ると傑の白いうなじが見える。  すきだなあ、と心の中で呟いた。  短い時間だったが、好きになるには十分だった。  すっきり別れられる自信はあったのに。  もう少しこの関係が続くならつけてもいいだろうか。  この感情に、しっかりはっきりと恋というありきたいな名前をつけた。  自分が苦しむことなんてわかりきっているのに。     

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