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第28話

 窓を開けるとしん、と冷たい空気が吹き込んでくる。  日の出をみよう、なんて言っていたのにふたりとも職場でべろべろになったせいで初日の出は叶わなかった。  意外だったのは、傑が日の出が見たいと言い出したこと、俺の家に帰ってくる気満々だったこと。  家から日の出見れるかなあ、と思いつつ、ベランダに外用の椅子を用意しておいたのは言っていない。 「傑、起きて。おせち食べよう」 「早起きだね……」  眠気でとろりとした榛色が目を覚ました。  血管が透けているまぶたがゆっくりと瞬きをする。 「今日だけはね。おせち食べて初詣行こうって言ったのは傑じゃん」 「……そうだった」 「二度寝は帰ってきてからにしよ」 「楽しみにしてた?」 「すっごい楽しみだよ。だから起きて」 「……優ちゃんがちゅーしてくれたら起きれるかも……」  ふざけているのが可愛くて、お望みどおりにキスをする。  乾燥して水分のない唇同士が触れ合って、ゆっくりと離れていく。  傑の体温が名残惜しくて、このままくっついて二度寝をするのもありかも、とちょっと思ってしまった。  榛色に満足そうな笑みを浮かべると、むっくりと起き上がった。 「王子様にキスしてもらったことだし起きましょうかね」 「お餅何個食べる?」  傑が餅好きだと知ったのはつい二日前だ。  二日酔い気味なのだろう。難しい顔をして考え込んでいる。  そして渋々と「一個」と答えた。明日は実家から餅が届く。  その頃には傑の体調も万全になっているはずだ。 「お雑煮に入れちゃっていい?」 「うん……」 「用意してくる。シャワーでも浴びてて」  頬に軽く口付けて立ち上がると、寝巻きの裾を引っ張られた。 「……一緒に入らんの」 「……はいろっか」  雑煮を温めていた火を止めて、風呂を沸かすことにした。  ふたりで裸になったら何もしないなんてことないのに。  風呂で一回、服を着る前に一回。  合わせて二回抜きあって、新年早々性欲に振り回されている。  中途半端に触ってくるせいで尻が疼いていたが、おせちを食べたら落ち着いた。  三大欲求で相殺できた数少ない例だ。   腹が満たされ、薄着で出かけようとする傑をもこもこにしてから神社に向かった。  神社で手を合わせ、甘酒で迎え酒をしようとする傑を止めたりおみくじを引いたりした。  俺は大吉、傑は中吉だ。  近くのぜんざい屋に入ると、初詣帰りのカップルや女の子でひしめきあっていた。ちらちらと人の視線が傑に向けられて、空気がそわついた。  さすがはNo.1ホストだ。今日は髪の毛もセットしていないし、俺のせいで顔は半分くらいマフラーで埋まっているのにきらきらが隠れていないらしい。  そんな視線をものともせず、席に着いた傑はもたもたとコートとマフラーを脱いでいる。  女の子たちがつついている善哉を見るだけで年甲斐もなく気分があがっていく。   わくわくしながらメニューを眺めていると、視線を感じた。  顔をあげると榛色とばっちり目があった。  俺じゃなくてメニューをみろよ、と思ったがなんだか機嫌が良さそうなので放っておくことにした。 「何にするか決めた?」 「決めた。優ちゃんは?」 「俺はこれ。それでトッピング全部乗せする」 「俺もそうしようかな」  傑が店員に向かって手をあげる。それだけで視線を集めるのだから、この男の容姿は驚くべき才能だと思う。 「優ちゃん、なんか楽しそうだね」 「そりゃあね。デートみたいで楽しいなって」  周りの女の子たちに聞こえないように声を潜めると、傑の顔が一瞬歪んだ。それまで上機嫌だったのに、突然降下していく。 「……? なんか怒った?」 「……なんでもない」  これでもかとトッピングされたぜんざいがくると、傑の引き結ばれていた口元がふわっと緩んだ。  機嫌が直ったことに安心して、俺も手を合わせてぜんざいを食べ始めた。

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