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夕飯が終わり、智哉 がキッチンで片付けをしていると、タオルが廊下をひらひらと飛んでいくのが見えた。マコ達と同居を始めて数日は、突如起こる怪奇現象にいちいち騒いでいた智哉だが、今は大分慣れてきた。あのタオルの正体は、智哉には見えていないが、風呂上がりのマコが裸のままタオルを持って、「キャー!」と楽しそうに走り回っている姿だ。その後を半裸の暁孝 が走ってくるので、智哉はそちらの方がびっくりする。
「ギャ!暁 !何でいつも半裸なんだよ!」
何度見ても、これには慣れない。普段家に籠ってばかりいるくせに、幻滅させられない体つきを、智哉は恨めしく思う。心臓が騒いで仕方ないからだ。
「仕方ないだろ!マコが素っ裸で走り回るんだから!注意するならマコにしてくれ!」
「だって俺には見えないし、見えてる暁は俺にもっと気遣うべきだ!」
「気遣うって何を」
「な、何をって、そんなの」
言えない、意識してしまうからなんて。
「とにかく何か着てよ!」
それから赤くなりながらも、話を逸らすように、マコがいるであろう方に目を向けた。
「マコちゃん、体は拭いたの?風邪引いちゃうよ?風邪引いたら、愛 さんに診てもらわなきゃ」
そう言うと、マコは走る足をぴたりと止め、途端に表情を青ざめさせながら、タオルを持って智哉の元へ向かった。
「トモ、ごめんなさい」
そう強ばった様子でタオルを差し出すマコ。智哉には、マコの表情や言葉は分からないが、これは拭いてくれという事かなと、微笑んでタオルを受け取りしゃがんだ。
「どれどれ、拭いてさしあげよう」
この辺かなと、目星をつけてマコの頭の上にタオルを乗せると、ちゃんとマコの髪の感触がある。そのまま、わしゃわしゃと髪を拭いてやると、マコはどこかほっとした様子で力を抜き、ふさふさの尻尾を揺らした。
イズミ探偵社に勤める女医、新橋 愛は、暁孝にとっては、いつまでも子供扱いされる事が難点だが、それ以外は頼れる医者だ。だが、マコやリンにとっては怖い人間だという。
二人がイズミ探偵社に入社した際に身体検査を行ったのだが、愛はこれをチャンスとばかりに、妖の力の源や不思議な力がどう体を伝わって引き出されるのか等、細部に渡って調べようとしたようだ。これも医者として、妖を守る為に大事な事だからと。しかし、愛にとっては純粋な思いも、二人にとっては、鼻息荒く迫ってくる熱意は恐怖でしかなく、その時は側に居た始 によって難を逃れたが、解剖実験でもされるのではと二人は怯え、その時から、愛という人間は自分達が仕えた神より恐ろしい存在だと思ったらしい。以来、マコとリンは、愛の名前を出しただけで、怖がるようになってしまった。
「よし、こんなもんかな。服着ようね」
「うん!」
マコは智哉に頷き、やって来たリンがマコに服を渡す。リンはちゃんと服を着て、智哉の目印になるカラスマンのキーホルダーと羽織も羽織っている。マコの髪にもクローバーのヘアゴムと羽織が加わり、智哉の目にもちゃんと二人の存在が確かめられた。
それを見て、智哉はいつも不思議に思う。妖の服とは、一体どんな材料を使ってるのかと。どうして見る事が出来ないんだろう。
「…俺にも、見れる魔法とかないのかな…」
思わず零した一言に、マコとリンは智哉を見て顔を見合わせた。
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