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「熱心だな」 声を掛けられ、智哉(ともや)はびくりと肩を跳ねさせた。いつの間にか、暁孝(あきたか)が側にいた。 「何を探してるんだ?」 「あ、えっと、見えない人間が妖を見れる方法とか、見えなくても妖を認識する方法ないかなって、」 「そういうのは、探偵社の技術部が作ってるだろ」 「あのゴーグルでしょ?あれ周りが見えなくなるんだもん」 技術部が開発したゴーグルは、確かに妖の存在を確認する事が出来るが、オレンジの背景に、うっすらと輪郭のような物がぼんやりと見えるというもので、そのゴーグルをしたまま歩く事は出来ない。見える世界が全てオレンジのライトで焼かれ、目の前に人がいようが壁があろうが何も見えないからだ。だが、妖の存在だけはうっすらとでも確認出来る。それは凄い事なのだが、とにかく疲れるのであまり掛けたくないのが本音だ。 「(とも)は今でも十分、妖と関係を築けてるし、今のままじゃ駄目なのか?」 「…(あき)は、やっぱり反対?俺が探偵社に入ったこと」 恐る恐る尋ねる。暁孝は反対したが、最後は始の後押しもあり智哉は入社したのだ。暁孝の力になるべく入社したのに、その暁孝に反対されたままでは、元も子もないように思う。 「…そりゃ今でも反対だよ。危ない事が起きない保証はない。だけど、言ったって聞かないだろ」 仕方なさそうに口元を緩めるその瞳からは、愛情が滲み出ている気がして、智哉は思わず視線を逸らした。顔が熱くて仕方なかった。 「だけど、嫌にならないか?あいつ」 そう視線を窓の外に向ける暁孝。鳥の妖の事を言ってるのだろう。 「つつかれるのは嫌だけど、帰りたがらないんでしょ?」 「何を言っても聞く耳持たずでさ」 「仕方ないよ、ゆっくり説得していこう…って、俺が言う事じゃないか」 それに、気持ちは分からないでもない。 よく考えたら、自分もあの鳥と同じようなものだ。ちゃんと思いを伝えられる分、彼女の方が凄い。 「智?」 俯いた顔を心配そうに覗き込まれ、智哉ははっとして顔を上げた。 「そ、そうだ、その妖の事も義一(ぎいち)さん見てたりしてないかなって思って!どんな姿してるんだろうって気になってたんだ」 「…それなら、鳥はこの辺りにまとめてる筈だが」 本棚を移動しながら、暁孝は分厚いファイルを手に取る。 「ありがとう」 「…顔色悪いぞ、無理してないか」 心配を浮かべる瞳と目が合い、智哉の脳裏にある記憶が流れ込む。 それは、暁孝に「必要だ」と言われてキスされそうになった事だ。 あんなに急接近したと思ったら、それ以来、ぎくしゃくする事も甘い空気になる事もなく、あの急接近は、最早夢の中の出来事ではと思えてくる。だが、こうして暁孝にじっと見つめられると、その記憶が呼び起こされ、心臓はけたたましく鳴り、気が気ではなくなってしまう。 智哉は慌てて暁孝と距離を取り、「大丈夫、大丈夫!」と元気な声を出して、そそくさと書斎を後にした。 一人残された暁孝は、腑に落ちない表情を浮かべたが、それは大きな溜め息と変わった。 こちらはこちらで、正気の智哉にキスしようとした事が間違いだったのではと、智哉を思い気に病んでいたりする。 二人の距離は、今夜も一向に縮まりそうになかった。

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