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それから三人で頭を悩ませるが、火の鳥の落とした羽がどんな物か想像つかず、とりあえず、皆が思う派手で貴重そうな物をイメージする事にした。そこで、庭へと続くリビングのガラス戸が開いた。入って来たのは真っ白な猫で、その尻尾は二本に分かれている。彼は、暁孝 の家に住み着いている猫又のシロだ。命名は、義一 である。
シロにも相談してみた所、それなら何か軸になるものが必要だろうと、どこからかカラスの羽を拾ってきた。
「これをベースにとりあえず考えてみたら?」と言い残し、シロは再び外へ出かけてしまった。残されたカラスの羽を見て、とりあえずやってみるかと、それぞれが案を出し合い、火の鳥に見合うだろう羽を作っていく。色を塗ったり、お菓子の包装やリボンを貼り付けてみたり、折り紙を千切ってひらひら感を出してみたり。恐らく、火の鳥が落とした羽とは雲泥の差があるだろう、だが、少しでも気休めになってくれたりしないだろうか。
今は暁孝への恋心でいっぱいかもしれないが、元はその羽を探す為に遥々やって来たのだ。羽を失くしてしまった事を気に病んでいない筈がない。
何より、これをきっかけに、敵意がない事が伝わらないだろうかと、智哉 は思わずにいられない。
毎日びくびくして家に帰るのは、しんどいものだ。
そんな時間を過ごしていると、インターホンが鳴った。始だろうかと玄関に向かうと、やはり始だった。背がすらりと高く、掻き上げた黒髪に、穏やかな眼差しと、今日も誂えた上質なスーツを着ている。いつも通り、きっちりした姿だ。
「いらっしゃい、始さん」
「お邪魔しまーす。何か変わった事はない?」
「大丈夫ですよ。あ、もしかして暁 に頼まれたんですか?」
「暁君は心配性だからね。なんか賑やかだね、何してたの?」
「今、火の鳥の羽を皆で作ってたんですよ」
始を促しながらリビングに戻ると、マコが顔を上げ、笑顔を浮かべた。
「ハジメだ!」
「やぁ、今日も元気そうだね」
「ハジメ、見て見て!」
マコが手作りの羽を見せようと始に駆け寄り、その手を引いていく。リンは束の間、始と目を合わせたが、始は微笑むだけだ。
マコは丁寧に羽を持ち上げた。ボンドであらゆる物を貼り付けたそれは、一時代を築いた盛りに盛られた携帯電話のストラップようだ。
「…まぁ、独創的だよね」
他に言葉が見つからない。
「良くなかったのかな…」
「…悪いとは言ってないんじゃないか?」
しゅんと耳や尻尾を下げたマコに尋ねられ、リンは笑顔をはり付けて言った。皆、マコには甘いのだ。
く、と手を引かれ、智哉はそちらに目を向けた。
「マコ君が、火の鳥に見せたいって言ってるよ」
始に言われ、智哉は頷いて腰を屈めると、マコに笑みを向けた。
「よし、皆で渡しに行こう」
「うん!」
声や表情は分からないが、弾むようにヘアゴムが動くので、マコの言葉が聞こえた気がした。智哉には見えないが、落ち込んでいたマコの耳と尻尾は元気良く立ち上がっている。智哉は微笑んで、皆でデコったカラスの羽をそっと持ち上げた。
火の鳥は、暁孝の部屋に居る事が多い。窓辺に腰を下ろし、よくぼんやりと空を見上げている。口では暁孝への愛を語り、その愛へ一直線だが、その目が寂しそうに空を見上げる事があるのを、智哉は暁孝から聞いていた。暁孝が無理に追い出さないのは元の性格からかもしれないが、火の鳥が居座るのには何か理由があるのではと思っているからだ。探してくれとわざわざ遠くから頼みに来たのに、羽の事を口にしなくなった、何か理由があるなら力になりたいと思うのは智哉も同じだ。
「全っ然違う!」
たがしかし、案の定、デコった羽は火の鳥によって、ペシッと床に投げつけられた。
「ヒドイ!頑張って作ったのに!」
「このアタシの美しい羽のどれを見て、アタシの落とした羽だと思ったのさ!」
「分かんないから、とびきり綺麗にしようって、皆で頑張ったんだよ!君に元気になって貰いたいから!」
マコの泣きそうな言葉に、火の鳥は驚いた様子だ。それから、戸惑ったように目を逸らした。
様子が分からない智哉は、始にそっと耳打ちする。
「…どういう状況ですか?」
「なんか、ちょっと心動かされたみたいだよ」
「本当ですか?」
形はどうあれ思いは伝わったのかと、感動する。それなら、もしかしたら火の鳥と仲良くなれるかもしれない。
希望に胸が高鳴った、そんな時だ、ガタガタッと、突然家が揺れ始めた。
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