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ぐらぐらと、床が、家具が、家全体が揺れ出した。地震だろうか、大きな横揺れだ。リンが咄嗟にマコを庇うと、智哉 も二人の羽織を目印にそちらへ駆け寄り、二人の体を両腕に包んだ。
「じ、地震!?結構大きいから、気をつけて!」
あわあわとしながら、智哉は様子を見る。ぐらぐらと横に揺れていたかと思えば、今度は天井に大きな衝撃が走る。ドドッと、屋根に何か大きな物が落下したような音が響いた。更に、ミシミシと揺れ軋む家にパニックになりつつも、智哉は必死に二人の頭を傷つけさせないようにと腕で囲っている。
リンとマコは顔を見合わせた。
「ね、ねぇ、どうしよ!机の下!?一階に下りた方がいいかな!?」
始 に半泣きで指示を仰ぐ智哉だが、智哉と打って変わり平然としている始にきょとんとする。
「な、なんでそんな冷静なんですか!?これ、大地震きてますよ!首都直下型!?」
「いや、揺れてるのはこの家だけだ、とりあえずドアの側に居て。窓には近寄らないでよ」
「え?ま、窓?な、何が起きてるんです?あ、妖?」
おろおろする智哉の目には見えてないが、窓にはぎっしりと何かが貼り付いている。感触は、もふもふしていそうな、羽毛のようだ。
「でっかい鳥が、この家に止まってるんだ」
リンは言いながら、智哉の腕から抜け出す。
「マコ、頼むぞ」
「うん!」
「あ、あれ、リン君?」
「トモは僕が守るからね!」
そう言いながら、マコは空いた智哉の腕を掴み、自分を背中から抱きしめさせるように両腕を回させた。見た目は、智哉がマコを後ろから抱きしめているように見えるが、マコとしては、智哉を背に庇っているつもりだ。
始は、揺れの中、窓に歩み寄る。羽毛がぴったりと貼り付いて、窓は開きそうにない。
家に止まっているなら、早くどいて貰いたい。暁孝 に用があるにしても、このままでは話も聞けない。
「玄関のドア開くかな、リン君ここ任せてもいい?」
「それなら俺が行ってくるよ、この揺れの中じゃ飛んで行った方が早いだろ」
そう言って翼をはためかせたリンに、「待ってくれ」と、火の鳥が声をかけた。
「…彼に、話は通じないよ」
その瞳は、いつもの気の強さは成りを潜め、不安に揺れている。
蹲る火の鳥に、始がその前で跪いた。そして、なるべく優しく声を掛けた。
「あの妖と知り合いなの?」
火の鳥は戸惑って視線を彷徨わせたが、意を決した様子で顔を上げた。
「…あいつは、アタシの婚約者なんだ」
「え?」
始とリンは驚き、窓へと目を向けた。
「火の鳥ってのは、あんなにデカくなるのか?」
リンはぽかんとして呟いた。
「能力の強さによって、体も大きく出来るんだよ。彼は一族のリーダー、一族の中で一番強い妖なんだ」
「ってことは、今日は随分気合いを入れてるって事?婚約者の君を連れ戻す為に?」
まさか痴話喧嘩かと、呆れた様子の始だが、火の鳥は首を振った。
「連れ戻す為じゃない、アタシが羽を失くしたから…罰を与えにきたんだ」
「え?」
その時、ドッドッと再び天井が揺れる。
「な、何が起きてるの!?」
「屋根をぶち破ろうとしてるんじゃないだろうな、外出れるか見てくる!」
ひ、と智哉が悲鳴を上げる中、リンが翼をはためかせ部屋を飛び出し、始も部屋を出た。廊下の窓にも羽毛が見えたが、角の突き当たりの窓からは、青空が見えた。
「智哉君、妖がいるんだ、じっとしててね」
「は、はい」
智哉は困惑しながらもマコを抱きしめる。マコはピンと耳と尻尾を立て、気合いの入った表情で、じっと正面の窓を見つめていた。何かあれば、自分が智哉を守ると構えているのだろう。
智哉の目に映るのは、青空の窓と、床に伏した火の鳥の首に巻かれたリボン。そこから、火の鳥がそこに蹲っているのだろうと想像できた。
「ねえ、火の鳥、大丈夫?君もこっちに来た方が良いよ。家具が倒れたら危ないから」
智哉の声は届いていないのか、火の鳥は蹲ったままだった。
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