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(はじめ)はスマホを取り出しながら窓に駆け寄った。ずっと足元が揺れているので、歩くのも一苦労だ。こんな時ばかりは、何故暁孝(あきたか)の家はこんなにも広いのかと文句を言いたくなる。 暁孝に電話は通じず、とりあえずメッセージを残し、再び電話帳を開く。探偵社に連絡を入れようとしたが、思い直し、ある人物に電話をかけた。彼は、ワンコールで電話に出てくれた。 「ごめんな、緊急案件なんだ、今出て来れるか?研究部の連中に気づかれないように、対妖用の道具を持って来てほしい。捕獲用の…そう、あと、鎮静剤。大物用」 それから、暁孝の家と場所を告げ通話を切ると、スマホをしまい、窓を開けた。少し身を乗り出すと、勢い良く長い長い大きな尾が左右に動き、始は慌てて仰け反った。 「っぶなー…こっちは尻か…」 真っ赤な長い尾は、巨大化した火の鳥なのだと納得出来る。七色の尾よりもそれっぽい。尾が動くのに気をつけながら身を乗り出し、周囲を確認する。さすがに二階の小さな窓だ、ここから人間が出るのは危ないだろう。何かクッションでもあればいけそうだが、下はコンクリートだ。頭だけ出して、屋根の上の状況を見ようとするが、尾がゆらゆら揺れているので、なかなか身を乗り出せない。 「おーい!ハジメかー?なんか凄い事になってるぞー!」 外から声が聞こえ、顔を出さないように窓から下を見れば、猫又のシロがいた。 「そうなんだ!どういう状況か分かる?」 「こう…家の側面が羽で塞がってて、家のてっぺんで鳥がつついてるよ!」 「何が目的か聞けない?」 「え、やだよ!怖いもん!こいつ、すっごい怒ってる!」 「頼むよ、シロ!礼はするから!」 「つつかれたくないもん!都会の猫又は友好的なんだ!暴力反対!」 シロの言葉に、始は溜め息を吐き頭を抱えた。 「じゃあ、何か言ってない?ここじゃ聞こえないんだ」 「なんか、出せって言ってるぞ!許さないって!」 シロの言葉に、暁孝の部屋で怯えていた火の鳥の姿が脳裏をよぎる。 「…本当に罰を与えに来たのか?」 壁を伝い揺れに耐えながら部屋に向かうと、リンが戻って来た。翼があれば、揺れに左右されずに自由に移動出来る。 「玄関は駄目だ。でも、リビングからなら中庭に出れるかも。見つからないようにするのは難しいけどな」 「そうか。外にシロがいたんだ。シロの話だと、恐らく火の鳥を出せって、許さないって言ってるらしい。家を羽で押さえ込んでいて、屋根をつついてる。屋根に穴を開けて彼女を連れだそうとしてるんだろう」 「熱烈だな…。それなら、さっさとあいつを表に出しちまおうぜ!元はといえば、あいつが元凶なんだからさ」 しかし、始は煮え切らない返事だ。 「なんだよ、」 「いや、罰を与えられるって怯えてる者を表に出すのもな…事情を知らないし」 「はぁ?じゃあ、どうするんだよ!」 「トモ!」 ガタン、と大きな物音と共にマコの声が聞こえ、二人ははっとして部屋に向かった。 「どうした!?」 見ると、智哉(ともや)が火の鳥に覆い被さっている。その智哉の体の上には、揺れに耐えきれなかったのだろう本棚が倒れていた。 「トモ!トモ!」 「だ、大丈夫だよ、マコちゃん、ほら」 忙しなく動く羽織を掴んで、智哉は笑う。智哉は倒れそうな本棚を見て、火の鳥を守る為にマコの手を振り払い、本棚の下敷きになったのだろう。 「智哉君!リン君、そっち持って」 「あぁ…!」 「ごめん、皆」 「いいから、すぐどける!」 本棚はすぐにどけられたが、智哉の背中の上には重たい本が山積みになっていた。 「いってて…(あき)ってば、小難しい本ばっか読みやがってー」 笑うが身体中を打っているので、すぐには体が動かない。 「大丈夫か!?怪我は…ここ切れてるな」 見ると、後頭部に傷が出来ている。 「傷は深くはなさそうだけど…ちょっと動ける?窓から離れよう」 「すみません」 頷きつつ、智哉は腕の中にいる火の鳥に目を向ける。姿は見えないが、体温や羽の感触を感じる。 「君は大丈夫?」 「…あ、あぁ、大丈夫さ」 放心のまま呟く火の鳥の言葉を始が代弁すると、智哉はほっと表情を緩めた。 「良かった」 安心した表情に、火の鳥は戸惑った様子で智哉の腕から出た。もしかしたら、智哉が庇ってくれるとは思わず、驚いているのかもしれない。 「まったく、帰ってきたら暁君に何を言われるか…」 「ハジメ!タオル!」 「ありがとう、とりあえず傷口抑えてて」 「すみません…」 「しかし、どうするかな…下に下りてリビングから出るしかないか」 「俺が囮になるよ」 「…そうだな、リン君なら身軽だし…とにかく、智哉君とマコ君を外に出そう」 頷き合い、始は智哉を庇いながら立ち上がる。 「おい、マコ行くぞ!」 それを見て、リンがマコに声を掛けるが、マコは窓に向いたまま動かない。 「…マコ?」

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