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「あーあー、もう翼ボロボロじゃない…これは(あい)君に、」 「治る!翼は生えるんだ!体はピンピンしてるしな!」 一度智哉(ともや)をリビングに連れて手当てをした後、(はじめ)は再び暁孝(あきたか)の部屋に戻ってきた。 「でも、翼痛いんでしょ?ボロボロ…リン、どうしよ…」 「な、泣くなよマコ!俺は平気だ!マコが無事なら、俺は何だって平気なんだ!」 「凄い精神力だね。でも、先生には診てもらうよ、呼んであるから」 ぽん、と肩を叩かれ、リンの顔から血の気が引いていった。どうしても愛に会いたくないのだろう。 「大丈夫、愛君じゃないよ、治療も出来るうちの社員だ」 「驚かすなよ…でも、俺は別に平気だし!」 「はいはい。しかし、参ったな…この部屋、どう元に戻すか…」 暁孝の部屋は、木の根が向きだしの自然溢れる部屋に変化してしまった。 「それより、これで丸く収まるんだよな、あの鳥達」 「あぁ、大丈夫じゃないか?様子を見ておくよ。とりあえず、二人も下に移ろう、智哉君を一人にしておけないし」 「あれ、ヒノ様の影響かな」 「え?」 「トモだよ。トモは妖が見えないのに、見えてる俺達には見えないものが見えて、聞こえたんだろ?」 「…そうか、こんな後遺症のケースは初めてだな」 「アキと一緒にいたから、妖の力に敏感になってるんじゃねぇの?人間の事はよくわかんねぇけど」 階下に下りると、リビングにも木の根が見え、一部天井を突き破っている。その先にあるのは、暁孝の部屋だ。この木の根は、家の床も地面も突き破って生えてきているようだ。 智哉はソファーで少しぐったりとしており、それに気づいたマコが智哉の元へ駆けて行く。それを見て、リンは小さく呟いた。 「…あの時、マコからイブキ様と同じ匂いがしたんだ」 あの時とは、マコの姿が別人のように変化した時の事だ。 「イブキ様と?じゃあ、あの力はイブキ様のものって事?」 「分からない…似てただけかもしれない」 けれど、長年イブキに仕えていたリンが、主の匂いを間違えるだろうか。 「まぁ、治まって良かったよ。今の所、いつも通りだし」 始の言葉に、リンはマコに目を向けた。 智哉を心配して見上げるマコは、いつものマコだ。智哉に頭を撫でられ、少し安心した様に揺れるふわふわの尻尾も変わらない。 その姿を見て、リンもホッとした様子で頷いた。 「あぁ、トモのおかげだ」 「リン君だって守ってくれたじゃないか。本当、君が一緒に来てくれて助かったよ」 「…俺は、イブキ様の指示に従ってるだけだ」 ふいっとそっぽを向くリンの頭を撫で、始はリビングから中庭へ出るガラス戸を開けた。サンダルを突っ掛け外に出ると、屋根を仰ぎ見ながら、ぐるりと家の様子を見て回る。 「おい!ハジメ!あの鳥小さくなったぞ!」 どこにいたのか、始の姿を見つけ、シロがぴょんぴょん跳ねて始の後を追っている。 「まだ上にいる?」 「あぁ!もう一羽が屋根の上に行ってから、飛び立ってない」 「そうか…もう少し待っておこうかな」 屋根の上では、二羽の火の鳥が身を寄せ合っている。 どんな話をしているのか、暁孝に対して熱烈な愛情表現をしていた時とも、智哉をライバル視して攻撃していた時とも違う。穏やかな表情に、少し気が抜ける。あれが本来の彼女の姿なのだろうか。 火の鳥の首のリボンが、柔らかに風に揺れていた。 「うわ、ひっでーなー、おい。ボロボロじゃん」 大荷物を抱えリビングにやって来た青年は、リンのボロボロになった翼を目にし、開口一番そう言った。 金色の長めの髪、背は始よりも高く、耳にはピアスが幾つもついている。見た目は少し軽そうな青年だが、始や愛も信頼を寄せる人物だ。 彼は、宮地慧(みやじけい)。以前は医師として病院勤めをしていたが、妖が見える事から愛がイズミ探偵社に引き抜き、今は探偵班と共に現場に向かい、治療も出来る調査員として忙しく働いている、出来る男である。 そして、その傍らには暁孝の姿もあった。 「二人、一緒だったのか」 「はい、駅前で坊っちゃん見かけて」 「坊っちゃんて言うな」 「ごめんごめん、愛先生につられて」 下からギロと暁孝に睨まれ、慧はへらと笑った。 「(あき)、」 暁孝を見つけ、智哉が駆け寄ってきた。 「大丈夫か?怪我してるじゃないか」 「俺は平気、俺、」 落ち着かない様子の智哉に、暁孝は優しく智哉の肩を叩いた。 「一緒にいてやれなくて、ごめんな」 暁孝の表情は、心配と申し訳なさに滲み、きっとその事に傷ついている。智哉はまた暁孝にそんな顔をさせてしまったと、少し落ち込んだ。 「…ううん、俺は、」 「夏丘(なつおか)ー、先に傷見せて」 リビングに荷物の内の一つを広げる慧は、治療の準備を整えたようだ。テーブルの上には、包帯や薬品等が並んでいる。 「ほら、診てもらえ」 「う、うん」 智哉は暁孝に背中を押され、名残惜しそうに慧の元へ向かった。 その背を見送って、暁孝はリンとマコの元に向かった。そしてリンの姿を改めて見て、暁孝は愕然とする。 「お前、ボロボロじゃないか…!」 「う、うるせぇよ!皆して…!」 ちょっと泣きそうなリンに、暁孝は慌てて首を振った。 「いや、違う、始さんから話は聞いてる。助かった、ありがとうな」 「…別に、マコの為だ」 「…僕、何も出来なかったよ」 照れくさそうにそっぽを向くリンとは対照的に、マコはしゅんと俯いた。そんなマコに、暁孝はマコの前にしゃがみ、優しく声を掛けた。 「いいんだ、マコだって皆を守ろうとしてくれただろ?それにマコには今から一番大事な役目を任せたい」 「え?」 「リンにちゃんと治療を受けさせる事だ」 「は!?」 「分かったよ、アキ!任せて!」 「ちょっ、待て!」 「なんだ、愛さんじゃないだけいいだろ」 「そりゃそうだけど、こんなのちょっと休めばどうにでもなる!」 「血流してる奴が言っても説得力に欠ける。マコ、頼んだ」 「うん!」 「マ、マコ、押すな…!」 二人が慧の元に行くと、始が苦笑いながら暁孝に声を掛ける。 「まさか、こんな騒動に巻き込まれるとはね…」 「あぁ、悪かった、」 「なーに、こういう事態を見込んでの俺でしょ?つっても、俺は何も出来なかったけど…智哉君とリン君のおかげだね」 「それで、鳥は?」 「まだ屋根の上じゃないかな」 そこへ、ベランダからシロが入って来た。 「鳥がようやく降りて来たぞ。話が纏まったみたいだ、結局、痴話喧嘩か?」

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