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羽ばたきの音が聞こえ、皆は中庭へと目を向けた。そこには、リボンを首につけた火の鳥と、彼女より二回り程大きな鳥がいる。先程まで巨大化していた火の鳥だ。その体の彩りは彼女同様鮮やかで、尾も同じように長いが、色は赤に金糸のような羽が混じっている。彼の名前はクオンと言い、暁孝(あきたか)に求愛していた彼女は、サノアと言い、ようやく名前を教えてくれた。 そしてサノアは、深々と頭を下げた。 「この度は、迷惑をかけして申し訳なかった」 「迷惑ってなぁ、こっちは怪我人も出てるし、あんないきなり襲ってきて、頭下げて済むと、」 「リン、いきなり動いたら痛いよ…!」 「い、痛くない!!」 頭を下げるサノアに、リンは真っ先に顔を頻め詰め寄ろうとするのを、マコが引き止める。振り返ったリンはちょっと涙目だった。きっと相当痛みを我慢しているのだろう。どうどう、と、(はじめ)によってリンは下がらされ、智哉(ともや)は傍らに居る(けい)に、どういう状況か尋ねた。 「鳥が頭下げに来てるんだ」 「え、どんな顔してる?仲直り出来た?」 そわそわと落ち着かない様子の智哉に、クオンは静かに歩み寄り、智哉の前に立ち止まると、自らの体を炎に燃やした。 「(とも)!」 思わず暁孝が一歩踏み出したが、始に制され踏みとどまった。その火は智哉に移る事はなく、炎の中からは、男が姿を現した。炎のような赤い着物を纏まった、まっすぐな瞳の男だ。その眼差しには、どこか他者を威圧するオーラがあり、皆は息を飲んだ。しかし、智哉には見えていない。 「わお」 「え、何?」 慧の驚く様子に智哉は不安を覚え、暁孝に視線を向ける。「大丈夫だ」と暁孝が言葉を投げると、智哉は瞳を揺らしつつも何度も頷き、幾分心を落ち着けたようだ。 炎から現れた男は、クオンの人形の姿だ。 クオンは、人のものとなった手で、智哉の手をそっと握る。智哉は、突然の温もりに驚き、びくりと肩を揺らしたが、次にもう一方の手が智哉の目を覆うと、突如脳裏に思い浮かべもしない人の姿が現れ驚いた。 人の姿をしたクオンが、智哉の頭の中に浮かんでいる。目の前には何も見えていないのに、頭の中では見えているというおかしな現象に戸惑いを隠せない。 「な、何?」 ー驚かせてすみません。私はクオン、火の鳥です。彼女を探しに来ただけなのに、皆に怖い思いをさせてしまったこと申し訳なく思っていますー 頭の中の彼は唇こそ動かないが、表情は申し訳なさそうに語りかける。 「そ、そんな事ありませんよ!良かったですね…えっと、仲直り出来たみたいで」 慌てて返す智哉に、皆はきょとんとしている。このクオンの声は、智哉にしか聞こえておらず、皆には、智哉の前に跪くクオンの姿だけが見えている。 ー私は言葉を持たないから、彼女にも誤解させてしまった。君がいてくれなければ、この思いを伝える事も出来なかっただろう、感謝しているー 「お、俺は何も!」 ーありがとうー 頭の中でクオンが微笑む。心の底から、という表現がぴったりと当てはまるその表情を見て、智哉は肩の力が抜けると同時に、ぽろぽろと涙を溢れさせた。 「智?」 驚いて暁孝が側に駆けると、クオンは智哉の前から身を引いた。 「一体、何をしたんです?」 泣きじゃくる智哉の肩を抱き、暁孝はクオンを見つめる。クオンは微笑みつつ首を振る。その様子に暁孝は訝り、暁孝の様子を察した智哉がはっとして、顔を上げた。 「ち、違うんだ(あき)、俺にありがとうって、彼女に思いを伝えられたって、皆に怖い思いさせてごめんって」 「え?」 「そうか…アンタには彼の声が聞こえるんだね…」 切なそうな声に顔を向ければ、サノアが申し訳なさそうな、それでいて少し寂しそうな瞳を浮かべていた。クオンは鳥の姿に戻ると、彼女の側に寄り添う。 それから二羽は、皆に頭を下げ、事の顛末を話してくれた。

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