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それから、時間を見つけては、サノアとクオンは逢瀬を重ねた。いつもサノアが話してばかりだったが、クオンは優しく話を聞き、相槌のように微笑み、時に難しい顔で首を振った。問いかければ、その表情でクオンが何を思っているのか分かったし、これが二人だけの特別な会話だと思えば、サノアはそれも嬉しかった。 そして、サノアは晴れてクオンと婚約した。 長に挨拶に行った時はさすがに緊張したが、サノアは好意的に受け入れられたようだ。里では物好き扱いされていたが、どうって事なかった。クオンが隣にいるのだから。 長の周辺は、クオンの花嫁探しに余程苦心していたのか、この機会を逃すまいというかのごとく、結婚するまでの準備や儀式といったものはトントン拍子に進んでいった。 その中の一つに、花嫁に代々受け継がれてきた羽根飾りがあるという。花嫁は結婚式の日にそれを身につける決まりで、その日まで自身で管理するという。里の宝を預ける、長の家に嫁ぐ者として認められ、信頼を得た証でもあった。 桐の箱に納められたそれは、艶やかで光沢があり、しなやかだ。その美しさに、サノアは手に取るのも憚る程だった。きっと、どんな宝石よりも価値がある、二度と同じ物は作れないと感じる極上の色彩美。 サノアはその箱を大事に受け取り、自分がこの羽根飾りを纏う日を想像して、一人で赤くなってはしゃいでしまう。ヨアンも喜び、張り切ってクオンの好み等をサノアに教え、花嫁修業なんてしたりして。 サノアは、幸せだった。 結婚式の衣装合わせの日、その羽根飾りを身に着けた自分は、まるで自分では無いようだった。たった一つの羽根を纏っただけでこんなにも美しくなれるなんて、まるで魔法のようだ。サノアはさら、と羽を手に触れ抱きしめた。 何よりこれは、クオンと夫婦になる証だ。その幸福感が、サノアをより美しくしているのかもしれない。 だが、その幸せはそこまでだった。 その日、サノアは何者かに襲われた。着替えようと身支度を整えるテントで一羽になった時、背後から何者かに襲われ薬で眠らされてしまった。 「サノア、起きろ!」 サノアが目を覚ますと、ヨアンがいた。 「あれ、アタシ、」 「いつになっても出て来ないから見に来たんだ。どうしたんだ、眠ってたぞ」 「え?…そうだ、誰かに襲われて、」 「は!?誰にだ!?何かされてないか!?」 「何かって、」 体に異常はない、部屋の中を見渡して、二人ははっとして顔を見合せた。 花嫁の羽根飾りがなかった。 羽根飾りを奪われ、すぐに従者達が犯人と花嫁の羽根飾りの捜索に向かい、サノアをあちこちを駆けずり回ったが、どちらも見つける事が出来なかった。 里を駆け回ったお陰で、着物も手足も泥だらけになり、そんな自分の姿を見下ろして、サノアは顔を手で覆った。なんて酷い姿だろう、あんなに幸せだったのに、まるで夢を見ていたみたいだ。 自分には不釣り合いな夢だった、これが現実なのだと。 魔法は、解けてしまった。 後になって分かる事だが、サノアを襲い花嫁の羽根飾りを盗んだのは、この結婚を不服としたクオンの部下だという。 クオンは里の者達には恐れられ近づく者もいないが、部下にはクオンに入れ込む者が多く、いつも無言のまま威圧的なオーラを放つクオンを神々しい思いで見つめているという。お喋りなサノアは強引で口も悪いと、クオンの嫁には不釣り合いだと思ったそうだ。 サノアは長に頭を下げた。襲われた事は事実だが、犯人側の画策もあり、サノアが嘘を言っているのではと疑いの声も上がっていた。あの花嫁の羽根飾りを盗み出す為に、その為にクオンに近づいたのではと。 反論はしたが、サノアが襲われた所を見た者はいない。そして、羽根飾りを奪われた自分にも過失はあったと、サノアも自分を責めていた。 「本当に申し訳ありません…!」 この時ばかりは、傍らに控えていたクオンの顔も見れなかった。長達からは溜め息と失望の眼差しが痛いほど注がれ、対面に座したクオンは、何も言葉を掛けてくれなかった。それどころか、視線を外され、サノアは絶望した。 これで、捨てられたと思った。 優しいからといって、さすがに代々受け継がれてきた大切な物を失くしたとなれば、罰は受けなければならない。どんな罰か想像もつかない。里の宝を失ったのだ、もしかしたら首をはねられるかもしれない。 だが、サノアにしてみれば、首をはねられるより、クオンに嫌われる事の方が怖かった。クオンと共に過ごせないどころか、冷たい視線を投げられるどころか、その視界にも映らない事が耐えられないくらい、サノアはクオンを愛していた。 サノアの身の安全の為、サノアは用意された部屋で過ごすよう命じられた。クオンも暮らす長の屋敷の中、その離れの一つだ。屋敷はテントのような布だが、建物は立派な木で組み立てられている。床板が高く、寝床もふかふかのベッドだ。だけど、これは罰が決まるまでの牢屋ではと、サノアは受け取っていた。最後に、一度は受け入れた花嫁に良い思いをさせる為だと。 たが、黙ってなどいられなかった。サノアは監視の目を盗み、家を飛び出した。 自分の責任だと、何としてでも羽根飾りを探し出さなくてはと。自分は処分されるとしても、あの羽は里の宝、失ったままではいられない。 だけど、どこを探しても羽根飾りは見つからない。しかも、クオン達の部下も捜査をしている、彼らに見つからないように探し物をすのは難しい。 そこで、噂の探偵社を思い出した。サノアは里を飛び出し、暁孝(あきたか)の元を訪ねたという。

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