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それから、後片付けをして一段落すると、智哉(ともや)はソファーでうとうととしていた。風呂から上がった暁孝(あきたか)が声を掛けると、いつも通りの半裸の暁孝に、智哉は驚き飛び上がった。 「ぎゃ!だから、服着ろって!痛っ」 突然飛び上がった衝撃が傷に障ったのか、智哉は頭を押さえた。 「そんな所で寝てるからだぞ」 「絶対、(あき)のせいだって…」 「もう休んだ方がいいんじゃないか」 「…うん」 名残り惜しげに智哉は頷いたが、さっさと二階に上がってしまう暁孝に、仕方なく肩を落とした。 サノアもいない、マコ達も早々に部屋に引き上げて、久しぶりに二人きりなのにと智哉は思うが、これは自分だけの感情なのだと必死に気持ちを押し止める。 大事だと思ってくれるだけで、嬉しい。 そう思い直しソファーから立ち上がると、二階からルームウェアを着て毛布を抱えてきた暁孝に首を傾げた。 「暁、今日はここで寝るの?」 「あぁ、部屋が酷い状況だからな」 「なら、俺のベッド使いなよ、俺はソファーで寝るから」 「お前、何言ってるんだ怪我人が」 「でも、」 「でももストもない、ほら、お休み」 肩を押され、あっという間にリビングから出されてしまった。 「……」 智哉は少しムッとしながら自室へ向かった。 「…なんだよ暁の奴、追い出す事ないじゃんか」 仕方なく二階に上がって自室に入ると、智哉はベッドに寝転び、天井を見つめた。一人になると、誰かの声が聞こえる気がする。智哉は両耳を手で塞ぎ、目を閉じた。 誰も話していない、クオンのように頭の中でしっかりと声が聞こえるわけでもない。ただ、落ち着かない、ざわざわと、まだ誰かが頭の中で話している感覚がする。 数ヶ月前、火の妖のヒノの意識に、体に入られた事があった。あの時、旅館では何も覚えていなかったが、池の中、ヒノが操る水の中でも彼女の意識が頭の中に流れてきた事がある。 けれどあの時は、こんな風に残響を感じなかった。それとも、何もかもが初めての事ばかりで必死だったから、気づかなかっただけだろうか。 暫くごろごろと寝返りをうっていたが、どうも落ち着かず、智哉は枕を抱えて部屋を出た。 シン、と静かな廊下、暗かろうが何だろうが、この家を怖いと思った事は今まで無かったが、今日は少し怖い。足早に、しかしマコ達を起こさないよう音を立てないように廊下を抜け、階段を下りた。リビングにはまだ灯りが点いていて、智哉はほっとして開け放しのリビングのドアを、トントンと叩いた。 「ん、どうした?」 すぐに暁孝が気づいて振り返る。ノートパソコンを前に仕事をしていたようだ。途端に申し訳なさと気恥ずかしさがこみ上げ、顔が熱くなる。 二十代半ばにもなって不安で眠れない、なんて。 「…ごめん、邪魔して」 「構わない。眠れないか?」 「……」 黙ってしまう智哉、ふと溜め息の気配が聞こえ、パタンとパソコンを閉じる音がした。 「部屋は怖いか?」 「え…ううん」 「一人が怖いか?」 「…耳を塞いでも、まだ声が聞こえる気がして…」 「そうか…」 すると暁孝は、ソファーをポンと叩いた。 「ここで横になってるか?」 「え、でも暁は?」 「俺はまだ仕事があるから。それにここなら、俺がいる。何かあれば対処出来るし、部屋は狭いからな」 「部屋は広いよ」 「いや、狭い」 「…?」 「…いいからほら、また追い出すぞ」 「こ、ここで寝る!」 智哉ははっとして、慌ててソファーに飛び込むと、持ってきた枕を置いた。横になれば暁孝が毛布をかけ、ポンとあやすように体を叩いてくれる。 「明日、(はじめ)さんに相談しよう。とりあえず今日は休め」 「…うん」 その温かな温もりに安心して、智哉は眠気がやってくるのを感じた。あんなに落ち着かなかったのが嘘みたいに、暁孝の側にいるだけで不安も消えていく。 次第に寝息を立て始めた智哉を見て、暁孝はその頬をそっと撫でた。 「…ごめんな、(とも)。大丈夫、俺がいる」 智哉に声は届いただろうか。穏やかな寝息にほっとしつつ、暁孝はその髪を撫でた。

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