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「よせ!来るな!俺はどこも悪くない!」 「リン君、暴れるんじゃない!そんな体でどこが悪くないって言うの!マコ君も逃がさないからね!次はアンタを診るんだから!」 ここは、イズミ探偵社の医療科の診察室だ。それ程広くないこの部屋で、リンと(あい)が時に椅子を蹴飛ばしベッドを飛び越えと、攻防戦を繰り広げている。 診察室のドアはカーテンで仕切られているが、そのカーテンはマコが震えてしがみついているので全開だ。診察室前には長椅子があり、暁孝(あきたか)智哉(ともや)はそれに腰掛けて様子を見守っている。毎度の事ながら、二次被害が出ない事が不思議な暴れっぷりだ。 何故こうなったか。智哉の件で暁孝が(はじめ)に連絡を入れた所、それが愛の耳に届き、智哉を連れてくるついでにマコとリンも連れて来るようにと、(けい)は愛から指示を受けたようだ。 慧も愛には逆らえない、たが、素直に言ってもマコ達は拒否するので、探偵社に来て貰わなければならない仕事があると、マコ達には悪いが嘘の理由をつくり、探偵社に連れて来たのだった。 こうでもしなければ、マコとリンは愛に会ってくれないだろう。 愛の診察を、マコ達はいつも拒む。体の隅々まで調べ上げられ、検体でも取られるのではと、人体実験ではないが、それらしき事をさせられるのではと思っているからだ。 マコ達がそう思うのには、愛の熱意の圧もそうだが、その診察方法にあった。 愛は人間ながら、妖を見るだけでなく、妖力を察知する力に長けていた。妖を分かりたいという努力の賜物か、元々の素質かは分からないが、妖の力や体内を巡るその流れ、その淀みが、触診である程度分かるらしく、その流れを変える事も出来るという。もし力の流れを変えられたら、妖は力を使えず、体も思うように動かせないという。妖にしてみれば、突然体の自由が奪われ、更に力を奪われるような感覚に見舞われるので、いくら愛にその気が無いにしても、怖くて堪らないのだろう。 だが、そんな力がある愛にも、マコの力の源は掴めないようだった。 以前にも、マコの力を探ろうと試みた事はあった。イブキという神が恐れる程の力だ、きっと大きな妖力の塊でもあるのかもしれないと警戒をし、慎重に探ってみたのだが、手に触れて分かるのは、等身大のマコの力だけだった。もしかしたら、体の奥深くに何か隠されているのかと、熱心になればなる程マコは怯えてしまい、いつもそれ以上の診察は打ち切りになっていた。 「科学班と違って、危ない事なんかしないってば!私は医者よ!確かに翼の再生能力には興味あるけど!」 「ほら!俺の羽むしって何する気だ!」 「既にむしられてるカラスが何言ってんのよ!」 「む、むしられてない!切られたんだ!それから俺はカラスじゃない!ヤタガラスだ!その辺のカラスと一緒にすんじゃねぇ!」 ギャアギャアと騒ぎながら攻防を繰り広げる愛とリンを横目に、目を白黒させ怯えるマコを見て、暁孝は溜め息を吐いて手招いた。すぐにマコは暁孝の元へやって来て、その胸に飛び込んでくる。いつもはふわふわの尻尾も、心なしか落ち込んでしぼんでしまっている。 「大丈夫だ、なんでお前達はそう怯えるんだか…」 うぅ、と暁孝の胸の中で泣き出すマコに、智哉は隣で笑って、ふわふわの髪を撫でてやる。 「…そういえば、心の声が聞けるって言ってたが、今も聞こえるのか?」 「ううん、何も。なんだったんだろう、あれ」 智哉は不思議そうに首を傾げた。 「今は何ともないのか?」 「うん、昨日は、なんか耳に残ってる感じがしたけど…」 言いかけ、智哉は暁孝の顔をじっと見て、すぐに頬を緩めた。智哉が安心して眠れたのは、暁孝のおかげだ。智哉の無防備な笑顔が何だか照れくさくて、暁孝はふと目を逸らした。 「今は平気だよ。マコちゃん、俺と一緒に愛先生に診て貰おう。一緒なら怖くないでしょ?」 マコは智哉を涙目で見上げると、小さく頷いて、智哉の手を握った。上下に揺れるヘアゴム、触れる小さな手の温もりに、智哉は暁孝に目を向ける。暁孝が頼んだと頷くと、智哉も笑って頷き、小さな体を抱き上げた。 少しだけ尻尾が膨らみ、ゆらゆらと揺れている。 そんな中、息も絶え絶え、リンは智哉達と入れ替わりに暁孝の元へ戻って来た。

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