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「また事務仕事かって、智 落ち込むぞ」
「特別窓口として働いて貰うよ。それに誰かが傷ついてマコ君が暴走したら厄介だ。今回は智哉 君のお陰で止められたけど…イブキ様が気に病む位だ、あれで済まないかもしれない」
「…なぁ、本当にイブキ様に話は聞けないのか?何も分からないままじゃ、対処しきれないだろ」
「アプローチを続けるよ。それに、足を伸ばして他の地域の妖にも聞き込みを続けてる」
「俺も」と、暁孝 は言いかけたが、思い直し「よろしく頼む」と始 に言った。始は頷き、少し困ったように微笑んだ。
「それがいいね。暁 君が居た方が皆安心する」
「…俺は何の力もない、じいさんみたいには」
「何の力がなくても、君がいるだけで皆、安心するんだよ」
「だよね」と、始がリンに同意を促すと、リンはふんと鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「少なくともハジメよりは頼りになるね」
「あらら、言われちゃったね」
そう言いつつも、何もこたえてないよう笑う始。そこへ、半べそのマコが診察室から飛び出してきた。
「どうした!?あの女に何かされたか!?」
すかさず立ち上がるリンに、暁孝は再びその肩を叩き落ち着かせた。そんな言い方をしては、また愛 とリンの攻防が始まる予感しかしない。
暁孝が診察室に入ると、苦笑いの智哉と不満顔の愛がいた。
「…それで、問題ないのか?」
「問題ないのが、ある意味問題ね。もう妖の心の声は聞こえないみたいだけど…この力が体に根付くのは嫌よね…」
「俺はこのままでもいいけどな…」
「何言ってるんだよ」
「いつ声が聞けるか分からないけど、またその力が使えるかもしれないでしょ?そしたら少しは役に立つしさ」
「またそれか」
「本当、坊っちゃんが好きね」
微笑む愛に、暁孝はからかわれたと思っているのだろう眉間に皺を寄せたが、智哉は慌てて身を乗り出した。
「な、何言ってるんですか、先生!」
「やだなぁ、もう」と空笑う智哉は、イエスと言ってるようなものだ。だが、そんな智哉に反し、暁孝はどこか難しい顔で俯いてる。智哉はその様子に、途端に不安になった。
愛の好きという言葉を、暁孝は何を思って受け止めただろう。本気になんて捉えてないから、もう別の事を考えているのかもしれない。
暁孝が自分を大事に思ってくれているのは分かる、けれどそれは、自分の思っているのものとやはり違うのではないかと、不安になる。
聞けたらいいのに、俺の事が好き?って。でも、今聞いても暁孝は、どちらにしろ頷いてくれない気がする。
それから愛と暁孝が話をする中、智哉は小さく肩を落とした。
暁孝の事を知りたくて、分かりたくて、力になりたくて、そう思えば思う程、暁孝が遠くに行ってしまう気がする。
何も知らなければ、暁孝が変に気に病む事はなかったのに。今の自分は、暁孝の負担でしかないのだろうか。
そう思えば、ただただ辛くて、苦しかった。
「マコ君も、相変わらず分かんないのよね…特に変化は見られないし。やっぱりデータが少ないわ、研究部じゃないけど、妖の事は分からない事が多すぎる」
「リンがイブキ様の匂いがしたって言ってたけど」
「うーん、今見る限りじゃ、いつものマコ君なのよねぇ。妖の力って複雑よ、体内から絞り出す者もいれば、外から力を取り入れるタイプもいるでしょ?勿論、訳分かんないのもいるけど…でも、マコ君が自然を相手に扱える力を持ってるとは…」
「部屋の中、ジャングルなんだが」
「森の中ならまだしもね…それか、坊っちゃんみたいに神様の生まれ変わりみたいなね」
思わずドキリとした。暁孝は、まだ自分の体の変化を周りには言ってない。おかしいと思っている事は伏せ、ただ傷の治りが早いとだけ言っているくらいだ。
やはり、自分は人ではないのかと、嫌な汗が流れる。
「暁?」
その様子に智哉が心配そうに顔を覗いたので、暁孝ははっとして、頭を振った。
「いや、なんでもないよ。ただ、それだと何か違ってくるのか?」
「仮によ。神と妖は似たような力だけど、別物でしょ?マコ君はもうアカツキ様の力は使えないみたいだし」
「…あぁ、首飾りか」
マコがお守りとして持たされていた首飾りだが、それにはアカツキの力が宿っており、イブキも恐れるマコの力を暴走させないよう守っていた。
だが、ヒノを救う為、その力は使い果たされてしまった。
「イブキ様の匂いがするっていうのも、まぁ、イブキ様の力が宿ってれば分かるけど…宿ってるのかしら、あの体のどこかに」
ふと呟いた愛の言葉に、暁孝と智哉は顔を見合せた。
「…だから、イブキ様の力が不安定なのか?マコが力を奪ってるのか?そんな事出来るのか?」
「でも、そうじゃなきゃイブキ様の匂いなんてしないでしょ。奪われているなら、マコ君の力を恐れるのも分かるし」
「マコがどうやって」
「それは分からないけど」
愛は大きく息を吐いて頭をかきむしった。
「駄目ね、ここで考えても何も分かんないわ、イブキ様に一度会えないかしら」
「…やっぱり、そうなるよな」
ケラケラと笑い声が聞こえ、暁孝はカーテンの向こうに目を向けた。すると、中途半端に閉められていたカーテンが開き、マコが顔を覗かせた。
「お話終わった?」
「…あぁ」
頷くと、嬉しそうに表情を綻ばせるマコ。
この愛らしい妖に何が宿っているのか、もうアカツキを失ったような悲しみを再び背負わせたくないと、暁孝はただ願うばかりだった。
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