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(あき)!?どうした!?」 シロの声が聞こえない智哉(ともや)は驚き、何事だと暁孝(あきたか)の後を慌ててついて行く。 そして、暁孝の部屋の前で立ち尽くしている芳江を見て、智哉は「あちゃー」と頭を抱えた。 暁孝の部屋の掃除は芳江(よしえ)への依頼の中には入ってないが、部屋の中から植物がはみ出しているので、ドアが開けっ放しになっている。部屋に入らずとも、暁孝の部屋の前を通れば、自然と中の様子は見えてしまう。 リビングにも木は生えているのだが、暁孝の部屋と違って皆が過ごす分には問題なく、なのですっかり忘れていた。芳江もリビングには軽く顔を出して二階へ上がったので、目に入らなかったのかもしれない。 ジャングルと化した暁孝の部屋について、リンとマコも何か誤魔化さなきゃと思っているようだが、どんな理由を付ければ良いのか分からないのだろう、困り果てている様子だ。 暁孝に気づくと、彼らは助けを求めるように暁孝と智哉の元へ駆け寄った。 「あの芳江さん、これにはちょっと理由がありまして…」 暁孝はどう理由を付けるべきか悩み、マコ達の肩を叩きながら芳江へと歩み寄る。今日、芳江が来る事は分かっていたはずなのに、何故無理にでもドアを閉めておかなかったのか悔やまれる。さりげなく部屋の前に立ちふさがってみても、今更だ。 「実は、次の作品の為に色々と…その、想像を膨らまそうと…オブジェを部屋に、その、用意していて、あの、森に飲まれた街をテーマに、作品を書こうと思ってまして」 そんな小説書く予定にないが、こんな理由しか思い浮かばない。そして、自分でも無理があると思えば思う程、しどろもどろになっていく。歯切れの悪い説明だったが、芳江は疑う事を知らない少女のように純粋な瞳で、「なるほどねぇ」と納得してくれた。 「さすが、物語を作る人は違うのねぇ…それにしても、立派な木ねぇ」 感心した様子で、暁孝の足元の木を眺める芳江に、皆はほっと息を吐いた。これで信じて貰えるなら、何を言っても信じて貰えそうだ。ただ聞き返さないでくれているのかもしれないが。 「お、お仕事お仕事!ヨシエさん、教えて!」 「そ、そうだよ、どこを掃除するんだ?」 ここぞとばかりに、マコとリンが芳江に声を掛けると、「そうだったわ、いけないいけない」と、芳江はマコとリンに手を引かれ、仕事に取りかかった。その姿に、暁孝と智哉は改めて安心した様子だ。 「芳江さんがハウスキーパーで本当に良かったよ。早いとこどうにかしてもらわないとな…」 改めてジャングルのような部屋を見渡す。撤去は暁孝もしているが、とてもではないが自分一人の手では負えず、ついで妖の力の産物だ。切った枝からは再び草木が生えるので、中途半端に手を出せば、緑は増すばかりだった。なので、手伝いを申し出る智哉には手を出させまいと、暁孝は固く誓っている。 「…どうした、(とも)」 静かになった智哉を不思議に思い振り返ると、智哉は少し寂しそうに笑った。 「…ううん、なんでもないよ」 智哉の様子を見て、暁孝はすっかり変貌した自室を振り返った。智哉は今、何を思ったのか。暁孝は、きゅっと唇を結ぶと、智哉の手を引いて階段まで足早に歩を進めた。 「え、暁?どうした?」 突然手を引いて歩き出した暁孝に、智哉が戸惑いながら尋ねる。階段の踊場まで来ると、暁孝は足を止めた。 「俺は、お前に甘えてばかりだ」 「え?」 「俺は普通じゃないから、智と居ると自分が普通になれた気がして安心出来たんだ。でも、知ろうとしてくれてるのも、正直嬉しい」 「本当?」 「…ただ、怖いんだ。もし何かあったらって思うと気が気じゃない。…じいさん達も帰って来なかった」 「…義一(ぎいち)さん達って事故だったんじゃないの?」 「事故だ。…事故だよ」 掴まれた手に、きゅっと力がこもった。その様子に、そうか、あれは妖が絡んだ事故だったのかと、智哉は思った。知らなかった事実にはっとして、握られた手を両手で握り返す。 暁孝は、自分を責めているのだろうか。その様子からは、何か責任を感じているような気がして、智哉は声を掛けようとしたが、何を言ったら良いのか分からず、智哉にはその手をただ握るしか出来なかった。 「…何が起きるか分からない、分からない事が起きてしまうんだ、妖は人とは違う力を持ってるから、偶然だとしても、予想出来ない事も起きてしまう。俺は、智まで失いたくない」 「暁、」 「…だからといってお前の事にとやかく口出すのもおかしな話だな。…本当、勝手だ」 困った様子で暁孝は手を放し、そっぽを向いて頭をくしゃと掻く。智哉は戸惑いながらその背中を見つめ、それから一歩近づき、暁孝の後頭部に自分の額を当てた。暁孝は驚き、僅かに肩を跳ねさせた。

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