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11.二度目の夜

 龍介が午後の仕事を終えたあと、再び昨夜のホテルで落ち合った。  部屋に入るなり、ドアに押しつけて噛みつくようなキスをしてやる。どちらかが冷静になるまえに、躰を熱くしてしまいたかった。  長身の龍介相手だと、見上げるように激しいキスを交わすのは少し苦しい。ねだるように体を押しつけてやると、不器用に腕が回され、背中を支えられる。  そうそう、いい感じ――、 「…………!」  次の瞬間、思った以上にきつく抱き寄せられて息が詰まった。  抗議の声を上げる間もなく、熱い舌がからんでくる。  始めは及び腰だったのに、なにかが吹っ切れたように攻めに転じると、龍介のアドバンテージは絶大だった。  なにしろ鍛えられた体の作りが違う。無駄のない筋肉で引き締まった胸に逃げ場もないほどきつく抱き寄せられると、それだけで全身の産毛が逆立つ気がした。 「は……、ん……、」  龍介の舌は肉厚で、容赦なく唾液を注ぎ込んでくる。それはまるで媚薬のように百樹を酔わせた。  苦しいほど翻弄されて、思わず後ずさると、龍介は追いすがってまた腕と舌を絡ませる。かわしてもかわしてもまた同じことをくり返す。  じりじりともつれ合いながら後退して、ついにベッドの上に倒れ込んだ。  百樹は素早く体の下から抜け出すと、倒れている龍介のベルトを緩めた。 そこはもう下着を持ち上げ始めている。それに苦さと一抹の悦びを感じながら、はむっとかぶりつくと、龍介は低く呻いてあおのいた。  はむ、はむと布越し愛撫を続けると、やがてそこは固く芯を持って苦しげに隆起し始める。  そこまで育ててやってから放置して、百樹は龍介の上にまたがったまま自分のTシャツに手をかけた。  体の前で腕をクロスさせ、見せつけるように敢えてゆっくりと頭から引き抜く。  龍介に比べれば酷く貧相な胸だが、露わになると、彼がごくりと息を呑んだのがわかった。  ジーンズも下着も脱ぎ捨てる。全裸で龍介の股間に跨がって、意味深に腰をくねらせてやる。龍介の漏らす吐息がだんだん切なく苦しげに変わっていくのを楽しむ。  こうまでされてまだ素肌に触れて貰えないのは、さぞや苦しいことだろう。――そしてそれが快感だろう。  キャラクターを演じるスイッチが入った自分には、それがわかる。  龍介は恨めしげに眉根を寄せた。かみ殺した声はときおり「あ……」という呻きになって漏れる。汗ばんだ額に長い髪が貼りつくさまが艶っぽい。  瞳は欲情で濡れていた。 「口で直にして欲しい?」  答えなどわかっているが、敢えて訪ねる。戸惑いと矜持が、ギリギリのところでブレーキをかけている様子を百樹も楽しむ。  龍介は顔を片腕で覆って「……頼む」と小さく懇願した。 「よくできました」  笑みと共にそう告げて龍介を引っ張り出すと、すでに手を添える必要もないくらい固く芯を持っていた。 「見て」  百樹は龍介を促してベッドの端に座らせると、自分は床に膝をついた。取り出した龍介のものを舌先に当てるようにしながら龍介の顔を見上げる。 「ここ、気持ちいいでしょ……?」  裏側の密やかな筋を舌先でくすぐってやると、龍介は目を伏せて「ああ……」と喘ぎとも、肯定ともつかない声を漏らして天井を仰いだ。  実のところ百樹自身、経験人数が多いわけではない。だから持ちうる知識を総動員している。龍介が感じてくれていると思うと喜びを感じた。  稽古場の廊下ですれ違ってもあからさまに目をそらすようになった先輩と、別れる前に一度だけちゃんと話をした。 『おまえだって長く続くわけないと思ってただろ、こんな関係』  と告げられたのを「ちゃんと」と言っていいのなら、だが。  百樹は悟った。  ああ、おれに求められてるのはそれなんだ。  最初から、お互い全然本気じゃなかった。  同じカンパニーでひとつのものを作り上げる、その一体感からくる一時の気の迷い。  俺だけじゃなくて、おまえだってそうだっただろ――先輩のそんな心の声が聞こえる。SNSや取材の写真の中できらきら輝く顔が、今は険しい。 『そうですよね。俺も、そろそろ将来のことちゃんと考えなくちゃだし』  と百樹から告げたあとの、あのほっとした顔。  苦い思い出を脳裏から追いやって、ぷくっと先端に浮いた蜜を吸う。そのまま割れ目をぐりぐりと舌先でなぞる。  さあ咥えてやろうとしたとき「待て」と押し返された。  待て?  昨夜は龍介も酒が入っていた。そんなところにあからさまな誘いをかけてくる男がいれば、勢いで抱いてしまうこともあるだろう。  だが一晩経ち、しらふになったら、やっぱり男は無理と気がついたということだろうか。  まあ、そういうこともあるよね。  それならそれで、傷が浅く済んでなによりだ。お互いに。  お互い。  あれ? と思った。〈お互いそれでいい〉んだよな?  なぜだか胸の奥をひっかくような小さな疼きがある。  その正体を見極められずにいるうちに、体が浮いた。 「ひゃ……!?」  思わず素で声を上げてしまい、慌てて口元を押さえる。  気づいたら、龍介のたくましい腕で軽々とベッドの上に持ち上げられていた。  興奮した様子の龍介に、幸い間抜けな声は届いてはいないようだが、いったいなにをするつもりだろう。  気がつけば、仰臥した龍介の上に跨がっていた。足のほうを向いて。  戸惑っている間に、龍介の大きな手の平が百樹の腹を下から持ち上げる。  眼前に突き出す格好になった双丘を、力強い親指がぐっと割った。 「あ……っ!?」  声を抑えることはできなかった。あられもない箇所に注がれる視線が熱い。  次いで濡れた感触が、そこを覆った。 「んぁ……!」  さっきよりも濡れた声が漏れてしまう。 「な……にを……ッ」 「夕べ、これが一番好きだと言った」  龍介もまた興奮で切れ切れになった吐息の下から、そう告げてくる。  ああ、あほビッチ。そんな本当のこと―― 「お、れは、いい、から。あんたが勉強したい、んだろ……!」 「俺も楽しませるって約束だ」  後腐れのない相手として選んだのに、そんなところは生真面目なのか。 「集中してくれ」  囁くと、龍介は再びそこに舌を這わせ始めた。    初めは覚束なく、喉の渇いた犬が水を求めるように。薄い皮膚に触れる吐息は次第に荒々しくなり、同時に指先も大胆にそこを広げていく。  濡れた秘所が空気に触れると、それだけで百樹の背は大きくしなった。 「ば、か……!」  かろうじてそう絞り出し、百樹は下着から飛び出した龍介の屹立を口に含んだ。 「ん、ふ……、ん……」  注意深く咥えないと、余りの弾力で逃げられそうになる。どうにか顎を前後すると、背後で龍介が息を呑む気配がした。  やられっぱなしじゃない。気を良くしたとき、龍介の指は百樹のそこを左右にぐっと押し広げた。  ひんやりとした空気を感じる間もなく、ぬるぬるしたものが入り込んでくる。 「あ……ッ!!」  大きく喘ぐと、龍介の屹立はぷるんと逃げていった。  龍介の舌は容赦なく百樹の中を侵す。キスしたときにも感じた、龍介の肉厚な舌を百樹の隘路ははしたなくきゅうきゅうと締め付ける。抵抗を分け入るように小刻みに抉られ、また嬌声が漏れた。 「あッ、やッ、やッ、……!!」  おれのばか。  こんな甘ったるい声出したら、ほんとは遊び慣れてないのがバレちゃう……!

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