百樹はきつく唇を噛んで堪えた。けれど龍介の舌遣いはやむことがない。それどころか、たっぶり唾液を流し込み、かき混ぜ、抜き差しし――淫らな水音で耳からも犯される。 「声を……出してくれ」 　執拗な責めの間に、龍介が言う。 「いいのかわからないと、勉強にならない」 「ああ……ッ！！」 　縦横に中を抉られ、頼まれるまでもなく声が出た。 　一度許しを得てしまうと、矜持はもたなかった。熱を持つ舌をせわしなく出入りさせられる度、呼応してはしたない声が漏れてしまう。 　龍介は両手の親指を百樹のやわらかくなった秘所にあてがい、あらためて左右にぐっと割る。 「あッ、あッ、あッ、あッ　や、やあ、ばか、広げすぎ……ッ！」 　非難しても、媚薬のような唾液を余計に注ぎ込まれるだけだ。濡れた肉襞が、百樹の意思など無視してそれを貪る。 　親指と舌とでいいようにほぐされたそこに、人差し指が入り込み、快感のスイッチを押した。 「ひ……ッ！！！！！」 　ごう、と全身の血がうねる。快楽の渦に飲み込まれる。沈みきる前に龍介の声で引き上げられた。 「挿入れても、いいか……？」 　それには応えず、百樹は体を起こした。同じく起き上がろうとする龍介の肩を押し返し、腹をまたぐ。 　ろくに愛撫もできなかったのに、龍介の屹立は固くそそり立っていた。 　 　す、ご……挿入るか……？　こんなの…… 　汗ばんだ額に長い髪を貼りつけている龍介の瞳をじっと見つめたまま、百樹は自らゆっくり腰を沈める。 「……、は……、き、つ……」 　あんなにほぐされたのに、龍介の質量はなお大きい。片手で体を支えたまま、見せつけるように飲み込んでいく。 　腹の中にすっかり収めると、喉元まで息苦しくなるような圧を感じた。もちろんすっかり熟れた躰は、それを悦んでいる。 　頼りない脳味噌と違い、躰はこの感覚を覚えていた。 　ああそうだ。夕べも確かにこうして乗っかった―― 　百樹は背をしならせ、自らいいところに当たるように腰を振る。 　 　本当のことをいうと百樹は、上に乗るのがそれほど好きではない。ごくごくノーマルに下になって、相手をゆっくり感じるほうが好きだ。 　包まれている感じが好きだ。 　どうあっても重いはずなのに、繋がっている間はそれを感じない不思議を味わうのも好きだ。 　果てたあと、もう他になにも考えられなくなってすべてを預けられるのも。 　でも、この人は昨日の俺が気に入ったんだろうから―― 　目を閉じ、闇雲に腰を振る。一番好むやり方ではないが、龍介の屹立はみっしりと百樹の中を満たした。猛々しい快感は抗いがたく、躰は上気していく。 　百樹は激しく淫らに腰を遣う。淋しさが胸を占める前に、すべてを終わらせてしまいたかった。 　やがて、龍介が低い呻きを残して果てる。 　しばらくはお互いの乱れた吐息だけが室内に満ちていた。 　求められた役割を最後まで果たすため、百樹は訊ねる。 「……ど？　しらふでも男いけそう？」 「――たぶん」 　たぶんか。まあ上々だろう。この先龍介が自分のセクシャリティとどうつきあっていくのか知らないが、自分にできることはしてやれたと思う。 「おまえは……どうだった？」 　龍介が訊ねる。ＳＥＸの質という話なら、まずこの極上の肢体だ。そして奉仕もできるとあっては、この先相手には困らないだろう。 　でもそれをそのまま伝えるのは、求められてないと思う。 　もっとはすっぱに、今日でやり捨てしていい相手なのだと思わせなければ。 　百樹は口の端を笑みの形に持ち上げた。 「そうだね、今までのなかではまあまあだったよ」 「――――」 　きっと苦笑して「そうか」って言って、それで解散。 　そう思ったのに、不意に龍介の視線が百樹をじっと見据えた。 　え、なに？ 　身構えた瞬間、龍介の両手は未だ屹立を飲み込んだままだった百樹の腰をきつく掴んだ。交わって、境界をなくしていた龍介の肉塊が、ぐっと膨張する。 「ひゃ!?」 　さ、さっきイッったばっかりなのに、もう――？ 　龍介の屹立は確かに力を取り戻していた。 　それどころか、さっきよりも質量も熱も増しているように感じる。 　龍介は百樹の膝裏を手ですくい、大きく開かせた。そうして楔を突き上げる。 「ああ……ッ！！！！！」 　まだ一度目の興奮も去らない躰だ。ひどく感じやすくなっているところに再び屹立を打ち込まれ、百樹の躰はびくびくと痙攣した。　 　痙攣した内部が龍介を締め付けると、さらにその圧が返り、快感は幾重にも襲いかかる。 「あっ、あっ、あっ」 　龍介の鍛え上げられた腕は、百樹のことなど簡単に持ち上げる。 　結合を見せつけるように、大きく大きく足を開かされ、何度も抜き差しされると、一度目の精液がぐじゅ、ぐじゅ、と音を立て、淫らに泡立つ。 「あっ、んっ、んんっ……！」 　強すぎる快感から逃げたくとも、龍介の腕はそれを許さない。できるのはせいぜい子供のようにいやいやと首を振ることくらいだ。 　いつの間にか快楽の涙が頬を伝い落ちていた。涙でにじんで、龍介の顔もよく見えない。 　全身どこを触れられても感じてしまうほど敏感に作り上げられて、胸がずきずき痛む。 　感じすぎると、きつく立った乳首が痛むのも、まるで少女のようにぷっくり胸が膨らんでしまうのも、すっかり忘れていた自分の体の特徴だった。 　不意に激しい突き上げがやんだ。 　も、もう満足してくれた――？ 　陶然とした頭で龍介をうかがう。と、背中のくびれに腕が回り、ぐっと抱き寄せられた。押しつける形になった胸の、紅い果実を口に含まれる。 「あ……！！！！！」 　もうこれ以上感じることなどないと思っていたのに、稲妻のような快感が鋭く体を貫いていった。 　龍介の舌は、痛いほど張り詰めていた百樹の乳首を執拗に責め続ける。 「そんなの……、しなくていい……ッ！」 　百樹の叫びは聞き入れられない。じゅっと音を立てて吸い、舌先でくすぐり、円を描くように乳輪をしゃぶる。それを交互にくり返す。逃げることは許さないとでもいうように、両腕は百樹の腰にがっしりと回される。 　下から強く突き上げる。激しい動きに、密着したお互いの体の間で百樹の屹立が揺れ、涙のようにこぼれた蜜は龍介が身につけたままの服を汚した。 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ん、いい、いい、ああ……！」 　気づいたらねだるように龍介の頭を抱き込んでしまっていた。 　突き上げと同時に、たまらなくなってあおのいた首筋を甘噛みされる。百樹は、気を失うほどの快感で再び達した。