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出会い 第2話
「莉玖~!こら、ちゃんと服着なきゃ風邪引くんだぞ!待て待て~!」
「あ~て~!」
「つかまえたっ!」
「きゃーっ!」
素っ裸で逃走しようとするところを、後から追いかけてきたオレにあっさりとつかまり、無邪気な笑顔を向けてきたのは、一歳を過ぎたばかりの莉玖(りく)だ。
「ほら、おててをここに入れて~?……そうそう、上手だぞ~!」
「……そんなところで何をしているんだ?」
莉玖にパジャマを着せていると、リビングのドアが開いて仏頂面の男が入って来た。
男が半裸の莉玖とオレを見て眉をひそめる。
「オカエリナサイ。見てわかんねぇのかよ!パジャマ着せてんだよっ!そしておまえはまず『ただいま』だっ!」
「だ~!」
莉玖が両手を勢いよく振りながら、オレの真似をして男に文句を言う。
「ほらみろ、莉玖だって言ってんじゃねぇか。挨拶は基本だよな~っ!」
莉玖の顔を覗き込んで、額をくっつけグリグリと軽く擦る素振りをすると、莉玖はオレの顔を両手で挟んでキャッキャッと笑った。
「へへ、はい、それじゃあ莉玖は服着てくださーい!」
「あーい!」
「……『タダイマ』……手伝おうか?」
男は、そんなオレたちの様子を横目に鞄をソファーに置くと、バツが悪そうにタダイマと呟き、ネクタイを緩めながらオレに話しかけてきた。
「(手伝いは)いらねぇからお前もさっさと風呂入って来い!湯が冷める」
「わかった――」
男は相変わらず仏頂面だったが、意外と素直に返事をすると、リビングから出て行った。
***
オレは綾乃 五月(あやの めい)。
何とも乙女チックな名前だが、生まれた時から立派な男だ。
むしろ、漢 だ!!
オレは今、この莉玖のベビーシッターをしている。
さっきの仏頂面の男が莉玖の父親だ。
つまり、オレの雇い主ということになる。
雇い主に対して、あんな口をきいていいのかって?
それにはまぁ……いろいろと深い理由があるわけで……
そもそも、どうしてオレがここで働くことになったのかと言うと、あれは一ヶ月ほど前のこと……――
***
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