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出会い 第8話
由羅の家は、一戸建ての結構、いや、かなり立派な3階建て住宅だった。
由羅って……もしかして金持ちなのか……?
なんかご近所もデカい家ばっかだし……
「こっちだ」
「お、お邪魔します」
由羅に呼ばれて、とりあえず中に入る。
「あれ?っていうか、子ども迎えに行くんじゃなかったのかよ」
「あぁ、後で姉が連れて来てくれる。それより、こっちだ」
「え、それじゃなんで……って、うげっ……」
外見に劣らず、家の中も広い。
広くてキレイ……だったのだろう。元は。
だが、残念なことに現在は……
家の中は荒れ放題だった。
ソファーの上には洗濯物が散乱。
ソファーの下のラグの上には紙おむつやおしり拭き、ベビーパウダーが散乱。
ベビーサークルの中はおもちゃが散乱。
キッチンも、洗い物が溜まっていた。
まぁ……男一人であんな小さい子を育ててたら……こうなるよなぁ……
由羅に案内されるままついていくと、地下室のようなところに着いた。
「ここは外部からの盗聴もシャットアウトしてくれる特殊構造だ」
「は?」
盗聴?一体なんの話だ……
「さてと、それじゃ詳しく説明させてくれ。ただし、この話は他言無用だ。莉玖に関わることだからな」
「ちょおおおっっっと待った!!それって、もしかして……聞いちゃったらベビーシッターの話を断れなくなるとか?」
「まぁ、そうなるな」
「それじゃあ、聞かない。オレは帰るっ!!」
「ここにきみが入った時点で、きみはもう関わっている。話を聞かないと、わけの分からないまま巻き込まれるかもしれないぞ」
え、待て待て、巻き込まれるとか関わるとかってどういうことだよ!?
こいつって、実は本気で何かヤバいことしてるやつなんじゃ……
「ベビーシッターをしてくれれば、きみの安全は保障する」
「はぁ!?……何だそれ、お、脅しかよっ!?」
「いや、本当のことだ。あぁ、心配しなくても私は別に怪しい仕事をしているわけではないぞ」
いや、仕事っていうか、もうお前が一番怪しいっ!!
「ぅ~~~……わぁ~ったよ!聞けばいいんだろ?聞けば!!」
話が全然読めない……
だが、わけのわからない状態で巻き込まれるくらいなら、いっそのこと、ちゃんと話を聞いておいた方がマシだ。
オレはとりあえずそこにあったソファーに座った。
***
「あれ?あの写真って……」
ソファーの正面の棚の上に、女性の写真が飾られていた。
オレにはその写真の女性に見覚えがあった。
莉玖を助けてくれと叫んでいた女性だ。
「あぁ、それは由羅 莉奈 。私の妹で、莉玖の母親だ」
そういえば、こいつのことを兄って言ってたな。
「へぇ~……って、妹が母親?莉玖はあんたの子じゃないのか?」
「私は独身だ」
言われてみれば、左手に指輪してないな……
「え、じゃあ……莉玖の父親は……?まさか、あんた……」
「そんなわけあるかっ!莉奈は妹だぞ!?」
「いや、だって兄妹でも子どもは作れ……りゅ!?」
「おい……もういいから黙って聞け!」
眉間に皺を寄せた由羅に両頬をムニッと挟まれた。
「ふぇーい、ふひはふぇん 」
これ以上言うと本気で怒られそうだったので、とりあえず口を閉じた。
「うちは姉と私と莉奈の三人兄妹なんだが、莉奈はうちの父親と再婚した義母の連れ子なんだ。とはいえ、うちに来た時にはまだ生まれたばかりだったから、私たちは本当の妹のように可愛がった。ただ、莉奈は、末っ子で甘やかされて育ったせいかちょっとワガママでな。数年前に母親とケンカをして家を飛び出してからしばらく行方不明だったんだ。ようやく連絡があったのは、病院からだった。それが三週間ほど前のことだ」
「病院?」
「交通事故にあったらしくてな。莉玖も一緒だったが、莉奈が庇って莉玖は無傷だった」
「妹さんは?」
「……ほぼ即死だったらしい」
「あ……そうか、悪い……」
「何がだ?」
オレは莉奈が亡くなっていることを知っていた。
だから、莉奈のことを聞く必要なんてなかったのに、つい流れで……
由羅は何でもない顔で話してるけど、自分の身内が亡くなったことなんて、あんまり思い出したくないよな……
でも、ごめんって言うのもおかしいし……あ~こういう時ってなんて言うんだっけ……?
「いや……えっと、ゴシュウショウサマデス……それで、今はあんたが莉玖を引き取って……?」
「そうだ」
「莉玖の父親は?」
「それが問題なんだ――……」
由羅が莉奈の遺品を整理していると、由羅宛の手紙が見つかったのだとか。
その手紙によると……
莉奈は家を出た後、母親の旧姓を使い、叶野 莉奈 と名乗っていた。
莉玖の父親は、さる大手企業の御曹司で、莉奈とは結婚の約束をしていたらしい。
ところが、父親に「許嫁と結婚しなければ後継者として認めない」と言われた彼は、あっさりと莉奈よりも後継者の道を取ったのだ。
その時点で莉奈のお腹には莉玖がいたのだが、彼に愛想を尽かした莉奈はそのことを話さず、一人で育てていく覚悟を決めた。
莉玖の父親とは二度と関わる気はなかったのだが、莉玖を産んでしばらくして、また彼から連絡が入った。
彼の許嫁はどうやら子どもが出来ない身体らしい。
そこで、莉奈を愛人にして、莉奈との子を本家の子として育てていきたいという、何とも身勝手な内容だった。
当然、莉奈は断った。
が、なぜかそれから変なことが起こるようになった。
莉奈が住んでいたアパートの近所で、莉奈と莉玖のことについていろいろと聞いて周る人物がいたり、後をつけられたり……
それは気のせいではなく、だんだんとエスカレートしてきて、莉奈の家に誰かが入ったような痕跡があったり、大柄な男に急に腕を掴まれ拉致られそうになったこともあった。
莉奈は怖くなって短期間で住む場所を何度も変え、時には友達の家を渡り歩いて必死に逃げ回っていたらしい。
だが、幼子を連れていつまでも逃げられるとは限らない。
もしかしたらそいつらのせいでいつか自分の身に何かあるかもしれない。
その時には、莉玖を兄か姉の子として、出自を絶対に隠し通して守って欲しいと書いてあったのだ――……
***
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