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出会い 第9話
「私は……妹の交通事故も、そいつらの仕業じゃないかと思っている」
「ええ!?」
「妹自身も身の危険を感じていたから逃げ回っていたのだろうし、莉玖の出自については絶対に隠して欲しいと言っていたのも、あいつらにバレると莉玖が奪われるか、命の危険があると思ったからだろう……」
「いやいや、まさかそんな……」
そんなドラマみたいな話あるか!?
いや、でも由羅の顔は真剣そのものだし……そもそも冗談なんて言うような男には見えない。
あ、ってことはもしかして……
「あの時、オレを誘拐犯呼ばわりしたのって……」
「あぁ……きみがあいつらの仲間なのかと思ったんだ」
「なるほど……」
そういうことなら、仕方ないか……
って、いやいや、そんな状況なら尚更子どもから目を離すなよっ!!
「妹のことがあってから、一応こちらでも出来得る限りのことをして調べてきた。まだ全てはわかっていないが、どうやら莉玖の父親は莉玖の存在にはまだ気づいていないらしい」
「え?じゃあ、妹さんの勘違い?」
「いや、妹と莉玖を監視していたのは、許嫁の方だ。自分に子どもができないからと、男が以前付き合っていた女を愛人にしようとしていることが許せなかったのだろう。莉奈のことを調べるうちに莉玖の存在に気付いてもしやと思ったのかもしれない。許嫁にしてみれば、莉奈も莉玖も邪魔者だ。消してしまおうと考えても不思議ではない」
「消すって……さすがにそこまでは……」
「残念ながら、他人の命を軽く扱う輩は案外たくさんいるんだよ。全ては金でどうにでもなる、と思っているやつは特にね」
いぃ~~やぁああ!!そんな人間の闇の部分なんて知りたくねぇよぉお!!
「莉奈を消したところで、自分に子どもが出来ない事実は変わらないのに、愚かなことだ……」
「そんな言い方……」
冷たく言い放った由羅に、なんとなくモヤッとした。
妹を亡くした由羅にしてみれば、許嫁の行動はたしかに愚かで許し難いことだろう。
だけど……
***
「どうかしたか?」
由羅が、腕を組んで唸っているオレの顔を覗き込んで来た。
「ぅ~~~……なんでもねぇよっ!!で、そのこと、警察には?」
モヤッとする感情をうまく言葉に出来なかったので、考えるのをやめてちょっとキレ気味に話しを続けた。
「下手に言ったら、逆に向こうにバレる。莉玖の父親側もそれなりに力を持っているからな。警察内部にも向こうの手のものがいる可能性が高い。だから、あの事故で莉玖も亡くなったことになっているんだ……」
「え?待てよ、内部に向こうの手のもの?がいるんなら、事故で亡くなったことにしたってこともバレるんじゃねぇの?」
「それはこちらの手のものを使っているから大丈夫だ」
あちらやらこちらやら、一体どちらなんだよ……
莉奈の子どもとして役所に届けられていたのは『莉季 』という名だった。
その子を莉奈と一緒に死亡したということにして届け出を出しているらしい。
「莉玖は両親のわからない子を、私が後継ぎの為に養子に迎え入れたということにしてある。そもそも、莉奈と私は全く血の繋がりはないからDNA鑑定でも莉玖と私には繋がりがないからな」
「なんつーか……ややこしいな……」
「あいつらの目を莉玖から引き離すためには必要な措置だ。もし生きていることがバレれば、莉玖も狙われてしまうかもしれないからな。今のところはバレている様子はないが、調べられれば、時期的に兄の私が莉季 とよく似た年齢の子を急に引き取っているのは、おかしいと気付かれる可能性もある」
「そりゃたしかに怪しいよな」
「一応引き取った時期は、もっと以前だったことにしてあるし、私は仕事が忙しいので近所との付き合いはほぼないから、いつから莉玖がここにいるのかなんて聞き込みをしたところでバレることはないと思うが……向こうはどんな手を使ってくるかわからないからな……もし何かこのことについて質問がある時は、この部屋の中でしてくれ。それ以外の部屋では絶対に莉玖の出自については口にするな」
由羅が人さし指を口唇に当てた。
「なんでこの部屋の中だけなんだ?」
「さっきも言っただろう?この部屋は特殊構造で、盗聴もできなくなっている」
「いや、だからその盗聴って何だよ!」
「そのまんまだ。盗聴器って聞いたことないか?」
「あるけど、え、それがこの家の中にあるってこと!?」
思わずキョロキョロと室内を見回す。
「この家の中はセキュリティがしっかりしてある。だが、家の中に侵入しなくても盗聴する方法はいくらでもある。例えば、買い物をしている時にすれ違いざまに盗聴器を仕掛けられることもある。ベビーカーに放り込まれていたこともあるし、バッグに放り込まれていたこともある」
「はぁ!?」
「まぁ、盗聴されるのは昔から慣れているし、今のところ仕掛けて来てるのは莉玖関係ではないだろうからどうってことないがな」
「昔からって……え?莉玖とは別件で?」
「あぁ、それは私の家の問題だから気にしなくていい。まぁそんなわけで外出先から帰ってきたら必ず盗聴器がないか調べるのがクセになっているんだが、いつもそれだと気が滅入るのでたまには盗聴器を気にせずに過ごしたいと思って作ったのがこの部屋だ」
もうさっきから、由羅が何を言っているのかわからない……
なぁ、オレ本当に起きてる?夢じゃないよな、これ……
そんな盗聴とか消すとか……勘弁してくれ……
「……おい、綾乃くん?大丈夫か?」
「あ、あははは……ちょっとオレ頭痛くなってきた……」
「え!?もしかしてあの時ぶつけたせいか?そういえば、病院には行ったのか!?」
由羅がとんちんかんな心配をしてくる。
こいつって意外と天然か?
「行ったけど、異常はねぇよ。オレ石頭だもん。そうじゃなくて、あんたの話についていけねぇんだよっ!何だよさっきから二時間ドラマみたいなことばっか言いやがってっ」
「ドラマって……何がだ?」
「だから、盗聴だとか、消すとか消されるとかだよっ!」
「あぁ……まぁきみからしてみれば非日常的に聞こえるかもしれないが、残念ながらこれが私の日常だ」
非日常的過ぎる……
オレみたいな一般ピーポーにはまったくついていけない世界だ。
母さん、どうやらオレはとんでもないことに巻き込まれてしまったようです……
助けてぇ~~!!!
***
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