11 / 358

出会い 第11話

 ――と、まぁ、そんな感じで、オレはこの由羅家のベビーシッターになったわけだ。  随分とヘビィな話だったので、どうなることやらと緊張していたのだが……あれから一ヶ月経つが、今のところ怪しい人影は見えない。  さすがにもう諦めたのでは?と思ったが、それでも最初の契約通り、地下室以外で莉玖の出自についての話をしたことはない。 *** 「風呂出たぞ、綾乃も入って来い」 「え?あぁ、オレは家に帰ってから入るからいいって。それより莉玖みててくれ。その間に晩飯の支度するから」  なぜか毎回、由羅はオレにも風呂に入れと言って来る。  え、もしかして、オレの家には風呂がないと思ってんのかな?  それとも、オレが汚いって?  ちゃんと毎日風呂入ってますけどぉおお!? 「お湯残してるぞ?」 「後で風呂掃除するからいいよ」 「そうか……ほら、莉玖おいで。服着たのか、えらいな」  由羅がオレの腕から莉玖を抱き取った。  最初はぎこちなかったが、だいぶ抱き方が様になって来た。  由羅は表情があまり変わらない。  常に気難し気な仏頂面だ。  怒っているのかと思ったが、どうやらそれが由羅にとっては普通の顔らしい。  最初の頃にオレが「仏頂面だと子どもも不安になるだろ?ちょっとは笑ってみろ」と言ったことを気にしているらしく、一応表情筋を動かそうと頑張っているところが少し可愛い。  ん?……いや、可愛いって何だよ!!こんなやつ可愛くなんかねぇよ!! 「いい匂いだな。今日の晩飯は何だ?」 「え?あぁ、えっと……今日はタラの味噌焼きと、なすびの味噌汁と、筑前煮だ」 「綾乃は本当に料理がうまいな」 「なんだよ。褒めたってこれ以外の飯はねぇぞ!?だいたい、こんなのただの自己流で適当な家庭料理だ。ちゃんとした料理学校に行ったわけじゃないしな。でも、飲食店でバイトしてたから、そこそこマシなもんは作れると思うけど……」  子どもの頃から家事をしていたので、家事全般はそれなりに得意だ。……と自分では思っている。  なんせ、どれもほとんど自己流だから、このやり方が正しいかどうかは……わからない。  料理は、近所のお年寄りに教えて貰ったから、煮物などの和食が主だったのだが、高校生の頃、飲食店でバイトをして洋食の作り方を覚えたから、おかげで少しレパートリーが増えた。  因みに、莉玖用の食事は、保育園に行っていた頃の毎月の給食献立表や、ネットで先輩ママさん達の作る献立を参考にしている。 「ほら、用意できたぞ。食え」  テーブルに由羅の晩飯を用意してまた莉玖を抱き取った。 ***  ベビーシッターのオレが、どうして由羅の晩飯まで用意しているのかと言うと……  それは、初めてこの家に来た日……  あまりの惨状に、由羅をこき使いながら家中を片付け、大掃除をさせた結果……台所のゴミから、由羅が莉玖を引き取ってからは、育児に追われてコンビニ弁当ばかりを食べていることを知ったオレが、思わず「お前の飯も作ってやる」と言ってしまったのだ。  だって、こいつ、莉玖が来る前は外食ばかりだったとか言うし……そんな食生活、絶対身体に悪い!  こいつが倒れたら莉玖が困るだろう?それにオレだってこんなに好条件で雇ってくれるところはもう見つからないだろうから、こいつがいないと困る!  だから、こいつには莉玖と、オレの雇用のためにも元気でいてもらわにゃならんのだ!!  オレの申し出を聞いた由羅は、意外なことに快諾した。  そして、『ベビーシッター兼』として雇ってくれることになったのだ。  もちろん、家政夫としての仕事の給料もプラスされる。  しかも、『莉玖の世話が最優先なので、手が回らない時は家のことは後回しにしてもいい』というかなり緩い仕事内容だ。  オレとしては助かるけど……こいつちょっと他人を信用しすぎじゃね?こんなんで仕事とか大丈夫なのか? ***

ともだちにシェアしよう!