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ひとつ屋根の下 第13話

 オレは昔から、この世のものじゃないものも視えていた。  いわゆる、幽霊とか化け物とかいう類のやつだ。  明らかに様子のおかしいやつは怖いので関わらないようにしていたが、たまに普通の人間と区別がつかないものがいて、中には話しかけて来るやつもいる。  自分が視えているそれらが他の人には視えないのだと気付いたのは小学生の頃。  そいつらが話しかけて来る時は頭の中に直接響いてくるような声だと気付いてからは、なるべく視えていない、聞こえていないフリをするようになった。  うっかり返事をしようものならオレは視える人間だと気付かれて、他のやつらも近づいて来て憑りつこうとするので、結構面倒くさいのだ。  幸い、オレは浄化?する力も少しあるらしく、そういうやつらが近寄ってきてもを入れれば跳ね返せるが、風邪をひいた時とか身体が弱っている時は憑かれやすいので、常に強力な御守りを持っている。  だから、この莉奈のことも無視するつもりだったのだが……  由羅の話が本当なのかを知りたくて、ここで働き始めてすぐに由羅のいない昼間、莉玖を連れて地下室に行った。  そして、そこでオレは初めて幽霊に話しかけた。 「お~い!……えっと、あ~……莉玖(りく)のママ~!」  莉奈のことを何と呼べばいいのかちょっと迷った。  そもそも、幽霊の名前を呼ぶなんて初めてだし…… 『はーい!やだぁ~、ママだなんてぇ~!恥ずかしぃ~~~!!』  急にソファーの斜め上あたりから、ちょっと高めの弾んだ声が聞こえ、頬に手を当てた莉奈が、身体をクネらせながら出て来た。  どうやら喜んでいるらしい。 『私、莉季(りき)の友達や保育士さんたちから、「莉季くんのママ~」って呼ばれるのが憧れだったのよね~……』  莉季(りき)というのは、莉玖(りく)の本当の名前だ。(以前の名前と言った方が正しいかな?)  莉季を保育園に入れる準備をしていた頃に、身辺に異変を感じ始めたので、結局、保育園には入れることができなかったのだとか。   『だけど、私のことは莉奈でいいわよ。その方が呼びやすいでしょ?』 「そりゃまぁ……でもいいのか?オレは別に、保育園ではよくママさんたちをそうやって呼んでたから慣れてるし……」 『……そうね……じゃあ、ここで話す時に、たまにそうやって呼んでくれたら嬉しいな』 「わかった。んじゃ莉奈、今からちょっと辛いこと聞くけど……――」    莉奈の話は、ほぼ由羅から聞いたのと同じだった。  莉奈の最期については、まだ記憶が曖昧らしくやつらの仕業なのか、ただの不運な事故だったのかはわからないということだった……  莉奈は事故で死んだ後も莉玖のことが心配で成仏することができず、今は守護霊になっているらしい。  それは一般的にと言うんじゃなかろうか……と思ったが、一応口には出さないでいた。  この家に来て驚いたのは、この家には他の霊が入って来ないことだ。  莉奈が言うには、由羅のおかげだとか。  由羅は本人はめちゃくちゃ鈍感なのだが、由羅についている守護霊がめちゃくちゃ強いのでこの家全体を守ってくれているらしい。    オレはそんなに力が強いわけではないので、(あいて)が視せようとしないと姿を視ることはできない。  守護霊とかは普段はあまり姿を視せないが、強い守護霊が憑いている人は何となくオーラのようなものが視えることがある。  たしかに、由羅のオーラはやけに眩しい。  莉奈は『兄の守護霊の力と、あなたの浄化の力があれば、莉玖が変な霊に憑かれることがないから安心だわ』と言っていたが、そもそも、莉玖の場合は憑かれる心配よりももっと心配するべきことがあるんじゃねぇのか……?  オレにしてみれば、生きてる人間の方が余程怖ぇよ…… ***    ――最初はベビーシッターと家政夫をしてくれと言われて、ちょっと焦った。  だが、子どもは莉玖一人だし、料理をしている最中とかは、少しくらい目を離しても何かあればが知らせてくれるので助かる。    幽霊が視えて良かったと思ったのは初めてだ。  高いベビーアラームよりも、よほど役に立つ!  これってもしかして、幽霊の新しい活用法なんじゃねぇの!?  あ、でも視えないと意味ないか……  それに、最初に大掃除をしたので、オレが気を付けていればあれほどの惨状になることはない。  由羅は帰ってきたらちゃんと莉玖をみてくれるので、意外と楽に両立できている。  通勤にも慣れてきて、結構今の仕事が愉しいと思うようになってきていた。 ***  それから数日後―― 「おはようございまーす」 「あぁ、おはよう……って、どうしたんだ?その荷物は」  玄関のドアを開けた由羅が、オレの荷物を見て眉間に皺を寄せた。 「あ~えっと実は、急遽家を出なきゃ行けなくなって。……あの、オレは駅のコインロッカーに放り込んでこようと思ってたんだぞ?でも、デカいロッカーが空いてなくて……とりあえずもう一個の小さめの荷物はロッカーに放り込んで来たんだけど……」 「家を?なぜ急に……家賃が払えなかったのか?言ってくれれば今月の給料を先に……」 「あ~違ぇよ。まだ当面の生活費はあんだよ!!そうじゃなくて……」  オレは自分の持ち込んだ荷物に、由羅家の絶対ルールである盗聴器チェックをしながら、経緯を説明した…… ***

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