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ひとつ屋根の下 第14話

 それは昨晩のこと。 「ぅえええええええええっっ!?」  仕事を終えてアパートに帰ると、オレの上の部屋が爆発していた。  ボロアパートだったせいでオレの部屋までガラスが割れたり天井が焦げたり……と影響を受けており、大家も年寄りなのでもうこの機会にここを潰すと言い出した。 「急で申し訳ないが、ここを出て貰いたい」 「ちょ、そんなこと急に言われても!!」 「いや、本当に申し訳ないけど、もうわしも年だからねぇ、建て直すのは無理なんだよ。いきなり出ろと言われても困るっていうのは重々承知だが、どちらにせよこの状態じゃ他の部屋も脆くなってるから危ないし、おちおち寝てられないだろう?もう他の部屋の人達は荷物まとめて出て貰ってるから、後は綾乃くんだけなんだよ」 「そんなぁ~~……」  そんなわけで、オレは深夜に帰宅して疲れきっている状態で、大家から借りた懐中電灯片手に、家の中の荷物を持てるだけ持ち出した。  大荷物を持って行ける場所は限られる。  そのうえ、夜中なので泊まれる場所も限られる。  とりあえず昨夜は駅前のネカフェに泊まることが出来たので助かったが……    くっそ……オレ今年はとか言うやつなのか!?   *** 「――というわけだ」 「上の部屋が爆発……?」 「ガス爆発らしいけど……なんせボロアパートだったんで、爆発の衝撃で他の部屋も壁とか床とかやられちゃって……電気の配線とかも傷ついてるからって止められてて真っ暗で……まぁとりあえず、けが人が誰もいなかったのが奇跡だな」  オレが帰宅した時にはもう一段落ついて静かだったが、昼間は消防車やらパトカーやらが集まって、大騒ぎだったらしい…… 「それで綾乃はこれから一体どうするつもりなんだ?」 「あ~……まぁ、しばらくはネカフェかな。金がたまったらもうちょっとここから近いところでアパートを探すつもりだ。荷物はもうちょい小分けにして、ロッカーに放り込めるようにすっから、今日だけ庭にでも置かせて貰って……いいですか?」  由羅は外から物を持ち込むことを嫌うので、一応顔色を窺いながらちょっと丁寧に言ってみる。    オレは言葉遣いは乱暴だが、丁寧語や敬語が喋れないわけじゃない。  保育園で働いていた時も、他の先生や保護者にはちゃんと丁寧に喋っていた。  じゃあ、なぜ由羅にはタメ口なのか。  由羅は雇い主であり、莉玖の保護者でもあるのだが、そもそも出会い方が最悪だった。  それに、働くことになったのも半ば強制というか、強引だったというか……だから、契約の時に『由羅と話す時にはタメ口でいい』というのを条件に入れていたのだ。  だって、今更こいつに丁寧語で喋るのは何か……変な感じがするし……こいつに媚びへつらうのもイヤだったし……  そのかわりに、由羅にもオレにはタメ口でいいと言ってある。 「なぜ庭なんだ。庭だと雨が降ったら中身が濡れるだろう?」 「え、いや……だってお前がこういうの中に入れるの嫌うし……それに、今日は晴れてるから大丈夫だろ」 「綾乃の荷物だろう?変な物じゃないなら構わない」  由羅が相変わらずの仏頂面でオレを見た。 「……そっか、まぁどっちにしろ、デカいから家の中に持って入ると邪魔になるし、お前がいいっつーなら、とりあえず玄関(ここ)に置かせて貰えればありがたい」    家の中に置いてもいいと言われるとは思っていなかったので、ちょっと意外な気がしてオレは頬をポリポリと掻いた。 「綾乃の置きたいところに置けばいい。それより……」  由羅が急に手を伸ばしてきたので、オレは反射的に身構えた。  な、なんだ!?やっぱり怒ってんのか!? 「大変だったな。あまり眠れてないんじゃないのか?」 「……へ?」  え……と?  何やってんの?  あ、こいつ……もしかして慰めてるつもりか?  由羅が、オレがよく莉玖にしているように、よしよしと頭を撫でて頬を両手で包み込んできた。    オレは子どもじゃねぇよっ!  手を振り払おうと思ったが、由羅の手は大きくて何だか温かくて……気持ち良かったので何となくされるがままになってしまっていた。  生まれる前に父親が死んだので、オレは母親の手しか知らない。  そのせいか、由羅に触られると何かちょっと……父親に撫でられるのってこんななのかな~とか思ったりして……  ん?  そんなことを思っていると、何か口唇に当たった気がして目を開けた。 「~~~~~!!ちょっ……なっ!?へっ!?おまっ……何やってんの!?」  目の前に由羅の顔があったので驚いて突き飛ばす。  いや、正確には、オレの方が後ろによろめいて尻もちをついた。 「何って、キスだが?」 「き、ききききすって……おおおおれ、男だぞ!?」  ゴシゴシと口唇を拭いながら、由羅に向かって叫んだ。 「綾乃がキス待ち顔してたから、して欲しいのかと思って」 「キ、キス待ち顔……?し、してねぇよっ!おめぇがオレの顔撫で回すから目閉じてただけだしっ!」 「何だ、もしかして、初めてだったのか?それは悪いことをしたな」  由羅が無表情のまま少し首を傾げた。  だからっ!それは一体どういう感情なんだよっっ!! 「はじ……初めてじゃねぇしっ!!キスくらいしたことあるわっ!」 「そうか。ならどうってことないだろう?」 「え……あ……お、おぅ……そう……か?」  動揺するオレを見て、由羅が、ふっと微笑んだ。 「何笑ってんだこの野郎!!」 「笑ってなどいない。お前はいつも元気だなぁと思って見ていただけだ」 「誰のせいだと……っ!」  オレは怒鳴って誤魔化していたが、本当は泣きそうだった……  くっそぉおおおおおおお!!由羅のバカぁあああああ!!  オレのぅううううう……!!! ***

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